第29話「麻帆良祭〜別れの言葉〜」
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、自然とタケル先生がいなくなってしまった空間を見つめてしまう。
――にしても、おかしい。さっき見た限りではタケル先生も確実に楓に気のある素振りを見せていたはずだが。
「さて、仕事の続きを始めるでござるよ?」
「楓」
あくまでも平常どおりに過ごすつもりらしい。それが逆に私を気遣っているのだとわかり、辛い。
と。
「スマン、待たせた」
私達の目前。
「「……は?」」
彼が舞い降りた。
太陽はとっくに沈んでいた。それでも、眼下に広がる学園祭の光はまだまだ一向に衰える気配を見せない。
今の自分は高台にいるせいか、吹きすさぶ強めの風に髪をもてあそばれてしまう。これでは折角整えてきたのに意味が無い。
『先に告白しかけていた生徒を処理しないと間に合いそうになかった』
それが拙者の言葉に返事を出来なかった理由らしい。
だったら、一言でも「先に仕事を処理する」などと言って断りを入れてくれたらいいのではないか。
「……全く」
呆れたようにため息を吐いたのが自分でも分かる。もっとも、そういったところも彼らしいといえば彼らしいのかもしれない。
『しっかり頑張ってこい』
これは刹那の言葉。
彼女にしては珍しく、なにやら含みを持ったような―まるで告白して来いとでも言わんばかりのような笑みを浮かべていた。
だが、応援をしてくれた彼女からしてみれば残念なことかもしれないが、拙者は別に告白をしたいわけではない。ただ、彼と一緒に麻帆良祭を回ってみたかったのだ。
自身の中でタケル殿に対する気持ちはよくわかっていない。この感情はいわゆる『恋』と考えればよいものなのか、もっと別の『尊敬』のような感覚として捉えればよいのか。
元々あまり深く考えずに彼を誘ったわけだが、今回のデート―といっていいのかも少しわからない―はつまるところ自分の気持ちを知るためのいい機会になるかもしれない。
そうすればそもそもこの良くわからない感覚にも、答えが出る気がしていた。まぁ、ただ一緒に回ることを誘うだけであれほどに緊張するとは思っていなかったのも確かではござるが。
時計を見てまだ少しだけ時間があることに、待ち遠しいような、それでいてまだ時間が欲しいような、そんな矛盾した想いが胸を通り過ぎていく。
タケル殿の仕事が終わるまであと少しは時間がある。それからここにきたとして、30分はかかるだろう。
――それにしても。
『仕事終わりでいいなら、広場の高台で待っていてくれ』
指定された待ち合わせ場所で、楓は首をめぐらせる。
「……」
――き、緊張して。
自分の胸を押さえるようにしてベンチに腰掛け
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