第29話「麻帆良祭〜別れの言葉〜」
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とてもではないが彼の顔を直視出来そうにない。
心臓がイタイほどに揺れている。煩い心の音が耳に溢れかえり、雑踏の賑わいすらも遠くに聞こえる。
チラリと、この状況を作ってくれた友人へと顔を向けると、いつになくにこやかな笑顔で頷いてくれる。
それが、自分の心を後押ししてくれる。
俯き加減だった顔をあげて、動かない彼の後姿を見つめる。
ピタリとその足を止めたタケル殿はそのまま少しだけ佇んでいたが、「あ」と呟いたかと思うとそのままこちらを振り向くことなく走り去ってしまった。
「……あ」
拙者の声は多分、かつてなくかすれていたと思う。
「タケル先生!?」
刹那の驚きの声を耳にしたまま、それでも彼はそのまま人ごみの中へとその姿を消した。
「……」
「…………」
少し、気まずい。
見事な空振りをしてしまった。自分が情けないどころか、わざわざお膳立てしてくれた刹那にも申し訳ない気分になってしまう。
余りにもあっけなく終わってしまった
「楓?」
恐る恐るといった様子で心配してくれる刹那に、せめて心配をさせてはいけないという思いが自分の中に沸いて立つ。
「いや〜、ふられてしまったでござるなぁ」
――はっはっは。
泣くでもなく、立ち尽くすでもなく、笑う。これが今の自分に出来る精一杯のやせ我慢。
――わかってる。
明らかな強がりで、傷ついている自身をそうまでして必死になって奮い立たせなければ、この初めて味わう身を切るような切なさに押しつぶされてしまいそうだった。
けれどもすぐにそんな虚勢いっぱいの笑い声も出なくなって、だけども心配をかけてはいけないという気持ちが途切れることは無く、そんな拙者から笑顔が絶えることはない。
「わざわざこんな状況まで作ってもらったのに……スマナイでござるな」
「い、いや。そんなことはいいが」
明るく振舞おうとする楓の言葉に、私の声も上擦っていた。
――なんて、声をかけたら?
これが普通の女子学生ならもっと話は簡単だと思う。その辛さを誰か親しい人物に聞いてもらう。慰めてもらう。
そんな寂しくも、温かい日常風景があるはずだから。
だが、目の前の少女は自分と同様、幼少のころより修行に励み、良くも悪くもその道にばかり心を傾けてきた人間だ。だからこそ尚のこと、刹那自身もまるで自分のことのように辛い。
励ませばいいのか、よく伝えたと褒めればいいのか。それとももっと他の言葉をかけるべきなのか。こんな時に何を言えばいいのか分からない。
あいにく楓にも自分にも、耐性どころかそのような経験すらない。
どうすればいいのかもわからず
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