第29話「麻帆良祭〜別れの言葉〜」
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、こんな時に限ってウンともスンとも反応しない。
チラと楓に目を配る。
僅かに顔が赤く、どこか表情がぎこちない。
そんな珍しい表情がまた――
――可愛い。
思ってしまった瞬間に慌ててその考えを振り払う。
くそ、厄介な。
彼女といたいと思う気持ちと、いてはいけないと思う気持ち。
そんな悶々とした思考から逃れるには、圧倒的にそっち方面 の経験値が足りていない彼だった。
――まさか、ここまで上手くいくとは。
タケルが悶々と自問しているとは知らず、刹那は自分の企てがバッチリはまったことに驚きとガッツポーズ。
――ん?
と、すぐにタケルの違和感に気付いた。
いつもの彼女なら気付くことはなかっただろう。
楓の思いを知った直後だからこそ、そんな楓を見たからこそ生まれる既視感。そして、その点に注意を傾けていたからこそ気付くことの出来る彼の異変。
普段よりも微妙に薄みがかって赤い顔。まるで何かに緊張しているかのような錆び付いた動き。そしてチラリと刹那の隣、つまりは楓へと目を配るその仕草。
――これは……まさか?
隣で固まっている楓と目の前でぎこちない二人を交互に見比べ、必然的に一つの結論が彼女に浮かぶ……というか、空気を全く読めない人間でもない限り、誰にでもわかるだろう。
「先生も見回りですか?」
「ん? ……ああ。そういう桜咲さんも見回りのようだが?」
チラリと楓に目を配る。それだけでタケルの言いたいことが分かったらしく、今度は楓が。
「せ、拙者は刹那の手伝いでござる」
お互いがお互いを意識してしまい、それに気付かず深みにはまる。どんどんぎこちなくなってしまい、友人を介してやっと生まれる会話。そんな誰もが通る青臭い春。
――あとは楓次第。
刹那はタケルには見えないように意識しつつ背後から楓を肘でつつき、言葉を促した。楓もまた刹那が整えたこの状況を理解しているようで、心を落ち着かせるためか、軽く頷いてから深呼吸を繰り返し始めた。
「……?」
その意味のわからない動きに、当然タケルとしては首を傾げるしかないわけだが、すぐにピピという音が彼の手から聞こえてきた。
「! ……俺のエリアか」
呟きもそこそこに慌てて踵を返すタケル。その表情は名残惜しそうな反面、どこかほっとしているようにも見えるのは楓の気のせいではないだろう。
目標ポイントを確認。走り出そうと一歩を踏み出して――
彼の耳に、彼女の声が届いた。
「一緒に……がが、学園祭をまわらないでござるか!」
「――まわらないでござるか!」
言ってしまった。
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