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打球は快音響かせて
高校一年
第六話 故郷
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「どーよー!?あたしも結構イケるやろー!?」
「あぁ、お前が一番だ!」

嬉しそうな顔で、葵は海を泳いで戻って来ようとする。その姿を上から見下ろしながら、翼は武に聞いた。

「…なぁ武、葵と同じ高校だろ?あいつ、俺以外に好きな奴とか、できてないのか?」
「ん?どしたんやお前?気になるんか?」

武はガハハと笑った。

「お前があいつと知り合うたん、いつや?」
「は?本島から越してきた6つの時だけど」
「俺は生まれた時からの付き合いやけど、あいつがこれまで好きや言うたんは翼だけよ。お前が水面に行ってから、尚更好きになりよーで」

翼は意外な気がした。
そもそも中2から付き合いだしたのも、流れというか、はっきりとしたキッカケも無かったような気がするのに、それが遠距離にも関わらず、葵の思いは強くなっている。会っていきなり抱きしめるような真似をしてきたのはこれが初めてだった。三龍では周りに彼女持ちだと言っているが、もし葵の方が冷めていたらどうしよう、そしたら俺は滑稽だなぁ。そういう心配をしていたのに、状況は全く逆だった。



ーーーーーーーーーーーーー



「ホント、あっという間やったね」
「そうだな」

気がついたら、オフも最終日。
翼は連絡船乗り場で、水面行きの船を待っていた。武はこの日はバンド(どうやら、高校デビューをかましてしまったようである)のあれこれで来なかったが、葵は翼を見送りに来た。

「あんね、あたし高校でも翼の事自慢しよるんよ。あたしの彼氏は島から出て、水面で野球留学しよるんやー、って。1人で親元も離れて、立派やろー、て」
「葵に言われなきゃ、絶対にやってないけどなぁ。自慢するほどのモンでもないよ」

苦笑いする翼と、無邪気に笑う葵。
毎日を過ごすのに必死だったが、水面地区で野球をしている事がここまで評価されるのかと、翼は帰って来てびっくりした。近所のオジサンまでもが声をかけてくれた。嬉しい反面、それは過大評価だと訂正したい気持ちもある。それは期待だった。現状の自分が褒められるほどのものではない以上、それは期待でしかない。

「あたしあの時ね、自分にちゃんと向き合わないけんよって言うたけど、あたしも、翼がいつも居らんようになって、あぁ、大事さ分かってなかったなーて思ったんよね。ちゃんと向き合うてなかったのはあたしもかもしれんって。」
「…………」

翼は何も言えない。
何か重たい。重すぎる。

「…頑張ってね。心配せんでも、あたしは逃げんけん。」
「………うん。行って来ます。」

船が到着したアナウンスが流れて、翼は席を立って歩き始める。葵は少し寂しそうな笑顔を見せて、手を振っていた。翼もそれに手を上げて応えた。

(…思った以上に、これ大変な事かも
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