高校一年
第六話 故郷
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る。別に翼は先輩に何の思い入れも無かったが、単純にここまであっさり努力が否定される様に驚きを隠しきれなかった。
試合後の一礼が終わり、グランドで戦ったメンバーがスタンドに応援のお礼を言いに来る。
ベンチに入っていた鷹合は泣いていた。
しかし翼の目は乾いていた。どうしようもないほど乾いていた。
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<いつ頃こっち着くん?>
「もうすぐ本島に着くぐらいだから、斧頃に着くには最低一時間はかかるかな」
夏の大会が終わって代替わりするまでに、三日間のオフが設けられた。翼は正月まで帰れない事を覚悟していたが、案外早く帰省するチャンスが与えられたのである。
フェリーの中の翼からの電話に応える葵は、少しばかり声が浮ついていた。もしかしたら、自分の声も葵にはそう聞こえているかもしれないな。翼は思った。
<じゃあさ翼、夕方で良えけ、西の崖に来てや>
「あ、そうだな。久しぶりに泳ぎたいし」
<武も連れていくけ、忘れんでね>
電話は切れた。
翼は息をついてフェリーの壁にもたれかかり、船の揺らぎにその身を委ねた。
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翼の故郷、斧頃島は木凪諸島の中でも外れにある島で、実にノンビリとした、まさしく「クソ田舎」である。
その島の西側にある崖は、翼、葵、武がよく遊んでいた場所だった。翼は実家に着くやいなや、神棚にだけ手を合わせて、海パン一丁の姿で自転車を漕いで向かった。
「あ!来た!」
「おーい、翼ー!」
葵と武は、いつもの場所で待ってくれていた。
翼も手を振りながら、2人のもとへと駆け寄る。
「翼ー!待っとったけんなー!」
「おぅ!?」
いきなり葵が抱きついてきたので、翼は訳が分からなかった。どうしてこんなにこいつ、積極的なのだろう。何か悪いモノでも食ったろだろうか?
「すっかり野球部やのー、アンダーシャツ焼けしよーやんけ!」
「武こそ何だよその頭!トサカみたいにツンツンさせやがって!」
武は中学の頃から髪型を変えて、ツンツンと跳ねた頭の形をしていた。ちなみに、体の形はちっとも変わらず、ぶったるんでいた。
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「よーし、じゃあ次はあたし飛ぶけんね!」
「おいおいやめとけよ、そのビキニじゃトップス吹っ飛ぶぞ」
崖の上からダッシュして飛び込み、どこまで距離を飛べたかを競う。いつも翼と武がやっていた勝負だったが、今日は葵もそれに加わろうとした。
翼の静止も聞かずに、崖の淵へ力一杯走る。
葵の体が躍動し、そして飛翔した。
ザパーン!
深い青をした海に飛沫が上がり、少しして「プハァ」と息を吐き出しながら葵が浮かび上がる。
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