高校一年
第六話 故郷
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同じ事を言うとぶっとばされている。
「…なぁ好村、俺はお前の事買っとーよ」
「え?」
突然話の方向が自分に向いて翼は驚いた。
「ほら、お前そこそこ背も高いし、左利きやん。中学で野球しよらんかったのに、割と投げ方キレイやし、体力もあるけん。腕がよー振れとるけ、ちゃんと浅海先生とかの言うこと聞いて鍛えりゃあ十分ええピッチャーなるて俺は思うよ。」
「え?マジ?いやまぁそんな事は…いてっ」
渡辺に褒められて翼が良い気になっていると、隣の美濃部が肘打ちを食らわせてきた。美濃部は一気に不機嫌になって黙り込む。
「……子どもやなー、おまえ」
渡辺はそんな美濃部に呆れた。
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豊緑の梅雨明けは早い。
7月に入りきらないうちに梅雨が明ける。
夏の大会直前には、どこの高校の野球部もこれがある。
「こらー!もう終わりかー!?もう諦めるのかー!?その一球が甲子園かかった一球だったらどうすんだー!?」
「も…もういっちょお願いしまぁーす!」
中々、高校野球の指導者というものはスンナリと大会に入らせてはくれないモノなのだ。意図的に「山場を作る」天才なのである、野球の指導者というものは。日々個人ノックが行われ、監督の乙黒がこれでもかと罵声を浴びせながら熱中症一歩手前のベンチ入りメンバーに打球を見舞う。
「15!16!17!18!」
個人ノックの割り当てが入っていなくとも、連続トス打撃と校内一周レベテーションのコンボやクイックスロー何十セット、シャトルランやタイム走、50-30ダッシュなど毎日毎日メニューを入れ替えるランメニュー、モンスター級のメニューが盛りだくさん。よくぞこれほどまで詰め込んだなと思える内容である。
翼ら鷹合以外の1年は個人ノックやティーなど、ボールを触らせてはもらえなかったが、ランメニューに関してはキッチリ上級生と同じ量をこなす事を要求された。入学当初の基礎練が懐かしく思えるほどの苦しさに、さすがの翼もグロッキーだった。翼だけでなく、殆どの1年がそうだった。
(高校野球ってヤベェな……)
翼は酸欠状態の頭でボンヤリと思った。
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カーン!
フラフラと打球が晴天の空に舞い、外野手のグラブに収まった。歓声が球場に満ち、守備側の選手がそれぞれハイタッチをしながら、攻撃側の選手は顔を袖で拭いながらゆっくりと試合後の整列に向かう。後者のユニフォームの胸には、行書体の漢字で「三龍」と刻まれている。
「…………」
スタンドで先輩と同じユニフォームを着て応援していた翼は、何を言う気にもなれなかった。1年の夏は実にあっさり終わったのである。あれだけの練習をして、それでもあっさり負け
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