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戦国異伝
第百五十七話 延暦寺その四

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「あの者達の生まれは知っているか」
「いえ、それが」
「拙僧は知りませぬ」
「拙僧もです」
「あの二人がどの国から来たのか」
「そしてどういった生い立ちだったのか」
「知りませぬ」
 こう言うのだった、どの高位の僧達も。その彼等の誰もがどうにもといった顔で大僧正に対して答えるのだった。
「一体何者でしょうか」
「この寺にも何処からか来ましたが」
「何時の間にか共にいる者達も増えています」
「まことにわかりませぬ」
「何者達か」
「そうじゃな、拙僧もじゃ」
 大僧正もというのだ。
「何者か全くわからぬ」
「ですな、全く」
「あそこまで何者かわからぬ者達はいませぬ」
「寺には様々な者が来ますが」
 過去を隠し身を潜める為に入る者も多い、それは延暦寺もだ。
 だから彼等もある程度はそれはわかっている、しかしあの二人はというのだ。
 彼等もだ、こう言うのだった。
「浅井殿のところに行かれたこともです」
「誰にも言わずにですから」
「そうしたことを考えてみますと」
「どうにも」
「うむ、わからぬ」
 だからだというのだ。
「あの者達を引き渡すことはな」
「では、ですな」
「あの二人もですか」
「織田家に引き渡してもいいですか」
「別に」
「不気味に過ぎる」
 大僧正はこうも言った。
「丁度延暦寺を立て直す好機であるしな」
「では、ですな」
「あの二人を織田殿に引き渡し」
「そしてですか」
「延暦寺もこの際徹底的にですか」
「清めますか」
「うむ、そうする」
 これが延暦寺の断だった、彼等はこの際寺の膿を徹底的に出すつもりだった、特に不気味なものは一切だ。
 織田家にはその日のうちに伝えた、信長はその話を聞いてまずはこう言った。
「ふむ、延暦寺も腐っているのは嫌だった様じゃな」
「それで僧兵と荘園をですか」
「一気に手放すのですか」
「荘園は檀家があれば足りる」
 寺をやっていけるだけの実入りは手に入るというのだ、ましてや延暦寺程の名札ならば容易にだというのだ。
「そして荘園がなければ僧兵はいらぬ」
「本来の僧侶に戻してですか」
「そうしてですか」
「そうじゃ、延暦寺も膿を出すつもりじゃな」 
 信長に言われたことを好機としてだというのだ。
「何しろここで断ればな」
「軍を出してですな」
「黙らせるからこそ」
「そうじゃ、それ故にじゃ」
 延暦寺としても攻められてはたまったものではない、そして信長が攻めてくることは誰が見ても明らかだったからだ。
「ましてや我等は既に門徒達とも戦っておる」
「延暦寺にもまた」
「攻めるからこそですか」
「わしも本気じゃ」
 その時はというのだ。
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