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は両手でヒョイと容易く宙に持ち上げた。
「ッ!?」
「まーたそんな不気味なカッコのまま黙りこけて、色んな人たちに迷惑かけたんじゃないでしょうね? いい加減やめなさい、それ」
「……〜〜ッ!!」
両脇腹を掴まれて持ち上げられながらも、その手から逃れようとじたばたと虚しい抵抗を続けている。
女店主はそのまま俺達の前へと持ち運び、ストンと降ろしてその両肩に手を置き、逃げないようにしっかりとホールドした。
「……〜〜ッ!? ……〜〜ッ!!」
「ごめんなさいね、あなた達。遅れたけれど、ここで私達の自己紹介をするわ」
俺達はもう何が何だか分からない状態で、もうコクコクと頷く事しかできない。
「では、改めて私から。私は、この宿屋《ウィンキング・チェシャ》の女店主、マーブルよ。そして――」
マーブルは言葉が終わらぬ内に……
――麻のフードをむんずと掴み、バサリと勢いよく剥ぎ取った。
「――あぁっ!?」
それと同時に、先程二階から聞こえた同じトーンの、可愛らしくも儚い悲鳴が響き渡った。
「――この子の名前はユミル。この宿で唯一の、可愛い可愛い常連さん」
俺達は揃って目を剥き、ついに全貌が露わになったその顔を凝視する。
まず最初に目を奪われたのは、艶やかなプラチナブロンドの髪。肩まで伸びる滑らかなストレートのそれは一本一本が細く、ごく僅かな挙動ですらサラサラと揺れ動くキューティクルで潤っている。髪型は毛先が僅かに内側にカールしている、長めのボブカット。
頭の輪郭は人形の様に極めて小さく、どこか幼さが残っていて、肌は肌理細かいというフレーズがピッタリと来る程の柔らかさと繊細さを感じさせる。クリッと大きく愛らしい目を覆う睫毛は長く、瞳は見ていて吸い込まれそうな程に透き通ったエメラルドグリーン。
顔全てを覆ったフードが取っ払われた今だからこそ分かるが、裾から覗く喉も首元も肩も……非常に華奢な体つきだ。
素顔を晒された、名をユミルと言うらしいそのプレイヤーは、マーブルが手に掲げるボロキレ同然のフードを奪い返そうと、届かぬ手を必死に伸ばし、さらには爪先だけで立って小柄な背を伸ばしてプルプル震えていたが……
「…………!」
俺達の強烈な視線に遅れて気付き。
そしてフードは諦めたとばかりに伸ばした手を力なく降ろしてから。
愛らしい目をキッと不機嫌そうに鋭くさせ、フンと可愛らしく鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
『……………。』
その音を最後に、一時の完全な静寂が訪れる。
……………。
そう。
その通りなのだ。
全身が粗末なボロ布の、不気味な姿の素顔とは。
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