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打球は快音響かせて
高校一年
第4話 情けは誰の為?
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な走りで、翼と飾磨が戻ってきた。2人ともタイムオーバーである。

「残念。飾磨、あと一本だ。好村、お前もだぞ」

浅海が言うと、飾磨は心底萎えた顔をした。翼も同じような顔をしているが、しかしどこか、繕っているように浅海には見えた。

(……ふぅん)

その様子を見て、浅海は何かを思った。



ーーーーーーーーーーーーーー



「おー、ごめんごめん」
「ヨッシー遅いっちゃ〜」
「もうすぐ始まるで、早よう」

翼は山崎と大江との約束通り、月曜のオフを利用して水面市のやや外れに新しくできたシネコンに出かけた。中心部からはやや遠いが、それでも田舎者の翼からすれば十分な都会である。
翼は、寮生の自分を慮って、わざわざこのシネコンを選んだ2人に感謝した。

「やっぱデッドライン・ブルーやろ!」
「いや、凪の花嫁やけ!」
「ちょっ、2人とも、揉める時間もないって!」

3人はこんな具合でキャッキャとはしゃぎながら、時を過ごした。翼にとっては、この時間は本当に尊い息抜きだった。



ーーーーーーーーーーーーーー



「外出か?どこに行ったんだ?」
「あ、浅海先生、こんばんは。」

門限より少し前に学校に帰ってきた翼は、中庭の畑に水をやっている浅海に出くわした。
うわ、ダル。見つかったよ。
そういう思いを抱いたが、しかし顔には出さないように翼は注意した。

「えーと、近くのH-joyに…」
「映画を見たのか?良いなぁ、私も来週に行こうかなぁ…」
「浅海先生、映画とか見るんですか?」

部活での鬼コーチぶりばかり見ていた翼は、意外に思った。浅海は心外そうに眉を釣り上げた。

「あのなぁ、私は国語の教員だぞ?本来そういう文化的な趣味があるんだよ。部活と趣味が一致してるのなんて、タイソーの先生くらいだ。それこそ、乙黒みたいな」
「あ、そうなんですか…」
「ほら、ボヤボヤしてないで君も手伝わんか。うら若き女性に畑仕事をやらしておいて何とも思わんのか?」

畑の様子を見ると、今水やりを始めたばかりらしい。翼に拒否権はなかった。

「この前のトレーニングの日の事、覚えてるか?少し聞きたいんだが」
「え、あ、はい」
「レベテーション最後の一本、どうして手を抜いた?お前なら平気でタイムに入れたはずだ。」

翼は、ああ、そのことかと納得した。
あのトレーニング日の浅海の機嫌は、レベテーション最後の一本以来、どうにも悪かったから、何か思ってるだろう事は想像できた。

「飾磨を1人で走らせるのは可哀想だったんで。あと一本走るくらい、別に良いかと思いました。」
「やっぱりな。そんな事だろうと思ったよ。」

浅海は少し呆れたような、何とも微妙な笑顔を見せた。


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