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乱世の確率事象改変
麒麟と鳳凰、仁君と伏竜
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むのは静寂。最後の緩い空気は瞬時に切り替わった。重苦しく、悲哀と絶望が包んでいる。
 ふと、隣の席に座る秋斗を見た雛里は絶句する。絶望の渦巻く、深い闇色の瞳。彼女に目を向けずに、秋斗はゆっくりと言葉を吐き出した。

「さすがにこの事態は想定してなかった。夕……田豊が上手だったな。俺個人を使ってまで思考の束縛を固めてくるとは……見事」

 悔しがる様子も無く、ただ敵の策を見事だと褒めた彼はどこかの覇王のよう。ぎゅっと自身の小さな手を握りしめて、雛里は悔しさに身を震わせた。
 自身が足りていれば、予測出来ていれば、こんな事態にはならなかったのにと。
 いくら天才と言われようと、愛しい人の心も身体も、簡単に窮地に追い詰めさせてしまっているではないかと。
 ふいにポンと帽子を抑えられて、後悔に堕ちる思考が中断された。

「なに、いつも通りだ。ここを乗り越えたら、きっと全てが上手く行く。クク、桃香の事も含めてな」

 少しの嬉しさを含んだ言葉に雛里は疑問が浮かぶ。

「で、でも白蓮さんも桃香様も……私達のようには……」
「桃香の性格上、この先の展開は一つにしか成り得ないだろう。そして俺の代わりに……覇王が叩き潰してくれるから大丈夫さ」

 目を向けられた瞬間、雛里は恐怖に心が凍りついた。自分に見えていなかった事柄も、秋斗には見えているのだと理解して。同時に沸き立つのは敬愛と信頼。

――ああ、この人はやっぱり……ここにいるべきじゃない。桃香様が理想を選んだなら……私がこの人の――

 僅かな言葉から予測出来た事は一つ。桃香がこの先で強いられる大きな選択。
 秋斗は……次の選択で桃香が理想と現実のどちらを取るか迫られ、そして現実を必ず選ぶと信じていた。
 雛里は桃香が理想を選ぶ事もあると理解している。その場合、自分が彼に選ばせる選択を幾つも頭に浮かべて行く。

「予測の共有は思考を縛っちまう事が田豊の件で分かった。だからそれぞれで考えよう。桃香が三つの中から選んだ答えを聞いてから答え合わせをしようか」

 窮地に追い詰められているというのに楽しそうな声で、彼は言葉を紡ぐ。
 空元気であるのか、それとももう壊れる寸前なのか、雛里には分からなかった。
 締め付けられる胸を押さえながら、雛里は……冷たく心を凍らせる。軍師の自分を作り出して。

「では……防衛、いえ、袁紹軍攻略の準備を始めましょうか」

――どうか、彼が壊れる事無く、全てが上手くいきますように。

 優しい笑みをくれた彼に微笑み返した。胸の内で涙を流して。
 そうしてまた、彼女は黒麒麟と並び立つ。




 †




 袁術軍の本隊は着々と兵力を集め、その数は既にこちらの倍を有していた。
 鈴々ちゃんと愛紗さん、星さ
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