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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
序章 シャングリ・ラの少年
七月十六日:『青天の霹靂』
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の蓋の上に箸を置いて通話の構えに入る。

『あ、おはよう、コウ君。朝ごはん中ごめんね?』
「母さん、『コウ君』は止めてくれって……どうかした?」

 機械の向こうから聞こえてきた声は、歳の割には若々しい。実におっとりした雰囲気の声。
 それに冷蔵庫から、昨晩冷凍庫から移しておいたラップ巻きの手製お握りを二つ取り出して、冷蔵庫の上のレンジで温めつつ応答する。

『いつもの事よ。今日はハンカチと絆創膏と傘を忘れちゃダメよ?』
「オーケー、ハンカチと絆創膏と傘ね……雨の予報はないけど?」

 携帯を頬と肩で押さえつつ、リモコンで起動したテレビを見やる黒い瞳。そこには、晴れの文字が踊っている。因みに、『%』等と言う無粋な数値はない。

『あら、ママの言う事聞けないの? いい、コウ君。確かに学園都市の天気予報は的中率100%よ。でも、それも永遠には続かないわ。何かの『事故』で『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が壊れる事も無いとは言えないんだし。第一、傘を雨にしか使っちゃいけない決まりはないでしょ?』
「それもそうか……まぁ、母さんが言うなら信じるよ」

 言われてみれば、その通りだと。
今の状態がいつまでも続く訳はないのだ。
 何より、()()()()()()そう言うのだから疑いようはない。

『それと、女の子には優しくしなさい。子供を作れない身体にされても知らないわよ?』
「分かってるよ、第一『女性に優しく』は俺の誓約(ゲッシュ)だろ……今日もいつも通り、紳士気取り(ジェントルマン)でいくよ」

 と、いきなり怒られてしまう。口調は相変わらずおっとりしたものだが。

――ってか、俺が作れない身体になるんだ?

 少し下半身がソワソワしたところで、レンジが鳴る。設定した時間は二分三十秒、ラーメンも食べ頃だ。

「……じゃあ、そろそろ」
『はいはい、今日は一日気を付けなさいね。多分、色々大変だろうから。あ、それとたまにはユヅちゃんに電話してあげなさいね。最近、寂しがってるから』
義兄(あに)離れしろって伝えてくれよ……全く」

 器用に熱々のお握り二つを片手でジャグリングしながらテーブルまで移動し、お握りを置いた代わりに箸を取ってカップ麺の蓋を剥ぎ取る。
 麺を軽く解せば、香ばしい醤油の香りが鼻孔を満たした。

『あ、最後に――――』
「うん、何?」

 後はもう、食べるのみ。そんな状態で携帯から漏れた声に耳を傾ける。
 それはまるで、小鳥の(さえ)ずりの如く優しい声色で。

『何時から禁煙が解除されたのかしら、対馬(つしま)嚆矢(こうじ)君十七歳?』
百分の一(サイアク)、か…………ごめんなさい」

 『()|
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