アウトサイド ―セパレーション―
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思ったんだ。
背負わせたくない、と生易しい気持ちで言ってるんじゃない。それはほんとに幽か。
「安部日高を殺していいのはこの僕だけです」
安部日高の命は僕のものだ。髪の毛1本から血の1滴骨のひと欠片まで僕が殺し尽くすためにあるんだ。誰にもやらせない。僕の家族が受けた苦痛と凌辱をあの女に叩き返すのは僕一人でなければいけない。この役だけはたとえ彼であっても渡せない。
殺す。
それだけを願って10年を生き永らえた。
10年前に家族と一緒に■は殺された。この「僕」は日高への殺意と憎悪で出来た泥人形。師に出会った幸運によって息を継いでいるだけ。
僕はあの女に殺された僕を取り戻す。それが僕の心臓。
家族にした嗜虐と凌辱を奴に叩き返す。それが僕の呼吸。
「渡しません。たとえ、あなたのご主人にだって。あの女は僕のものだ」
……言い切った。
麻衣に語った虚飾だらけの決意じゃない。決意を抉った奥にある本物の願望。
「無理に夫が同行したら?」
邪魔するなら殺してやる。
「――障害は排除します」
安部日高を殺していいのは僕だけだ。横から掠め取るっていうならたとえあの人でも優子さんでも敵だ。
やり方なんていくらでも知ってる。ぜんぶ師に教えてもらった。人の殺し方、何通りも。日高を殺すやり方を憎悪に応じて選べるようにと。
「……そう」
優子さんはそっと目を伏せた。
きっと優子さんは今、安心している。夫が、10年待ち続けた男が殺人者にならないですむことに。彼を止める理由を僕から与えられたことに。
僕の見立ては外れてはいない。でも。
ふたたび僕を見た優子さんの目は愛惜を湛えていた。だから。
僕の見立ては当たってもいなかったんだと、分かった。
「ごめんね」
――君一人に汚れ役を押しつけて。
――君より愛する男を優先して。
――ずるい大人で。
名は体を現す。彼女もまた然り。
僕は優子さんに頭を下げた。
痛いくらいに優しい人を踏みにじって、僕は仇討ちに邁進する。
10年の悲願を遂げるために。
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