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英雄王の再来
第1騎 英雄王
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常心を装ってから声に出した。

「失礼致しました、アスバル王弟殿下。部屋は、ご用意させて頂いております。ご案致します。」

「ふん、兄上の裁量に感謝するのだな、ナラヴェル。兄上が声を掛けなければ、この場で不敬罪として、お前を処分するところであったわ。」
王弟殿下は、何がおかしいのか、笑いながら言われた。

「では、兄上、明日の朝、お顔を見に参りますよ。・・・ナラヴェル、案内せよ。」
そう、言い残して、先に部屋から出ていった。悔しい・・・陛下にご迷惑ばかり掛けて、何一つ出来ない。謝罪しようと、陛下の方を見た。陛下は寝てしまわれたのか、眼を閉じており、寝息が聞こえる。謝罪するタイミングを失ってしまった。仕方なく、私は殿下を部屋に案内する為に、部屋を出ようとする。その時に、微かに聞こえるか、聞こえないかぐらいの大きさで声が聞こえた。

「・・・すまない、ナヴィー。」
振り返った。そこには、先ほどと変わらず、寝息を立てて眠っておられる陛下がいる。しかし今、確かに声が聞こえた。それは、陛下の声だ。・・・ナヴィーと、私の事を呼ぶのは陛下しかいない。陛下がまだ王太子で、私は宰相ではなく、ただの従卒だった頃に呼んで頂いていた名前だ。陛下が、陛下としての重荷を、責任を、立場を、負う前の若い頃・・。幻聴だろうか・・・戻りたい、帰りたいあの頃を思い出すばかりに、それが聞こえたのだろうか。陛下・・いや、ルミウス・・死なないで下さい。私を、置いて行かないで・・・。

もう一度だけ、陛下の方を見てから、殿下を案内する為に部屋を出る。そっと、出来るだけ音を立てないように、ゆっくりと扉を閉めた。



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陛下は・・アトゥス王国第8代国王 ルミウス・エルカデュールは、そのまま一度も目を覚ますことなく、翌朝、死亡が確認された。在位20年の年、享年34歳だった。“英雄王”と呼ばれ、アトゥス王国に黄金の時代を齎し、民に安心出来る生活、その思いに、勇気と希望を与え、アトゥス王国が進む道を、その身を燃やして照らし続けた。他国には、“魔術師”と呼ばれ、恐怖の対象として恐れられて、畏怖と死を与え続けた。波乱の人生を駆け抜けたルミウス・エルカデュールは、その人生に安寧の時を得ることもなく、荒れ狂う嵐の中で、その命の灯を消した。誰もが受け入れられず、民が、国が、泣いて、悲しみに暮れた。その涙は、枯れることもなく流れ続け、大きな湖を創った。それぞれの心に、その名を、その言動を、その思いを、残した・・・。

時に…アトゥス王国暦121年12月25日 “英雄王”は志半ばに、その名を墓標に刻んだ。






第1騎 英雄王   完。

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