第1騎 英雄王
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、ない・・・。」
その言葉に、私の視界が少しずつ歪んでくる。目に涙が溜り、堰を越えて溢れ出す・・・いつも、そうだ。陛下は、私達の欲するものを、私達の為に与えて下さった。それは、経済力、軍事力、食物や鉱産物、仕事など。そして、何よりも勇気や安心、希望などの気持ちを下さった。いつでも、御自身を犠牲にして。こうして今も、私の気持ちを察して下さっている。
「陛下・・・。」
言葉が出てこない。涙以上に気持ちが、その堰を越えて溢れ出している。私は、陛下のお気持ちに何かをお返し出来ているだろうか。・・・・いや、出来ていない。何も・・お返しなど出来ていない。後悔が、悔しさが、無念さが、私の心から溢れている。
「兄上!!」
扉が勢いよく開けられ、大きな音を立てて、騒がしく数人が部屋に入ってくる。そこには、陛下の弟君であるアスバル・エルカデュール王弟殿下とその重臣達がいた。
「アスバル殿下・・・。」
「ナラヴェル!兄上の容体はどうなのだ!?」
大きな声を挙げながら、ベッドに近寄って来られる。
「陛下は・・・あまりよろしくありません。・・陛下、アスバル殿下が来られました。」
私は、涙を拭いて答えた。そして、陛下に声を掛ける。
アスバル殿下は、ベッドの横に立ち、陛下の顔を覗き込んでいる。殿下の重臣たちも、陛下の容体を確認するように、周りに立つ。
「兄上、ご気分はいかがですか?」
「あぁ・・・、アスバル、大丈夫、だよ・・・。」
陛下は依然と、苦しそうにされている。一言話すにも、ひどく体力を使われているように見えた。
「兄上、ご心配召されるな。今後は、私がアトゥス王国を盛り立てていきますよ。」
「!? 殿下!何をおっしゃっております!?」
信じられない事を言われている・・・それでは、陛下が崩御されることを前提として、話されているみたいではないか。王弟殿下と言えど、不謹慎にも程がある。私は、胸の内に“憤り”を感じていた。
「あ、いや・・・失言であった。」
殿下は、殊勝にも謝罪されたが、その顔に“謝罪”の気持ちなど微塵も含まれてはいない。元々、私は、王弟殿下に良い気持ちを持っていない。アスバル・エルカデュール王弟殿下・・・彼は、陛下と6歳違いの御兄弟である。先王のオグスタス・エルカデュール王の2人目の王妃、ナナル王妃様から御生まれになった。そして、陛下は、1人目の王妃、エリアス王妃様の御子様なので、腹違いの御兄弟になる。勤勉で、真面目であった陛下と違い、若い頃から賭博や女遊びに興じられており、陛下と比べて、その不真面目さが際立っていた。私からすれば、統治者の一族として、上に立つものとして、何の才もなく、“無能の人”であると言えた。ただ、貴族達にはその信頼が厚く、中には陛下よりも殿下に忠誠を尽くしている者も
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