第1騎 英雄王
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一気に空気が冷えあがった。先ほどまでの温和な笑顔、声のトーンではない、相手を声だけで震え上がらせるほどの“威”を感じる。
「はっ!」
クレタ大元帥が緊張した声で答える。
いつもは、陛下はとても温和で、お優しい御方だ。しかし、ある一点でその性格が雷撃のように激しく、鋭くなる。誰も逆らう事はできなくなり、陛下の御前で、その頭を垂れる。――それ以外は、許されない。
クレタ大元帥、シャルスベリア軍騎長が早足で退出した。早々に、出陣の準備に取り掛かるのであろう。少しでも遅れるようであれば、陛下の謀略が意味を失くすことになる。――謀略、つまり、今回のチェルバエニア皇国が動いたのは、陛下が手を回したからである。チェルバエス教の大僧侶達を焚き付けて、最高教議会で“出征”を可決させざるを得ない状況を作った。チェルバエニアの多くの人々が、自分の意思だと信じて行ったその行動は、陛下のグラスを持つ手――その手の上で、道化のように踊ったに過ぎない。恐ろしい・・この御方は“人の心”がどのようなものなのかよく御存知で、それを人形でも触るかのように意のままに操ることができる。それ故に、陛下は他国で「魔術師」と呼ばれている。人の心を惑わし、狂わせ、破滅へ導くと・・・。
しかし、陛下はこのアトゥスに建国以来、最大の繁栄を齎した。アトゥスのその領土を大きく拡げ、軍事において最大、最強の騎兵を作り上げた。他国に「アトゥスの騎兵」と恐れられているほどだ。また、農業については、輪作と言われる“土地を休める”という概念を取り入れ、土地を入れ替えながらその季節、時期に合わせた作物を作り、生産性を格段に上げた。その他に、鉄の精錬や生糸の生産など誰も考え得ぬ事を導入し、その経済力は他に追随を許さないものにした。今や、アトゥスはフィリエイア大陸一の国へと成ったのである。それ故に、陛下はアトゥスで「英雄王」と呼ばれている。アトゥスという国を、そこに住まう民を、希望の未来へ導くと・・・。
「英雄王」と「魔術師」の両面、それをお持ちのこの御方が・・・
――アトゥス王国第8代国王 ルミウス・エルカデュール
・・である。
同日 夜
白華宮 国王自室
国王 ルミウス・エルカデュール
夏の暑苦しい湿気を伴った風が、部屋を吹き抜けていく。肌にまとわりつくようで、少しうっとおしい。このアトゥスがそろそろ本格的な夏を迎えようとしているようだ。夏は嫌いだ。暑いだけで、服を脱いでも暑い。それに、暑さに耐えられずに裸でいると、ナラヴェルが「王が何という格好を・・・」とか「宮中の女中が騒ぐ」などと五月蠅いし。・・・夏、早く終わらないだろうか。
そんなことよりも、最近、少し体が怠く感じる。夏の暑さで、という感じではない。私は、天蓋がついている大きなベ
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