U ライトグリーン・メモリアル (1)
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れば生きていられた。あの女は僕しか殺すつもりはなかったんだから。
まだ覚えている。僕を庇うために飛び込んで、僕を抱きしめたまま妖怪に食い殺された時の音。引きずり出された臓物と、噴き出す血。僕を抱いた腕は死後硬直でどんどん冷たく硬くなって、周りにいた大人が引きずり出してくれなかったら危うく死体の腕から抜け出せなくなるところだった。
「その人のこと、好きだった?」
麻衣は恐る恐る僕に尋ねた。
「……愛してた?」
「――――ああ」
愛していたさ。きっとこの世の誰よりも。僕の世界の半分だった人だ。あの人が死んで僕の半分が死んだ。別の個体である者が死んで自己も死んだというなら、そのつながりは愛と呼ぶ他ないだろう。
とたん、麻衣が僕に背後からタックルした。女の細腕が僕の鳩尾辺りで交差している。ちょうど肩甲骨の下にささやかながら確かなふくらみが押し当てられている。ハグされていると分からないほどにぶくはない。
「どうした、麻衣」
「ベベべべ別に!? 何となく!」
自分からやっておいてその狼狽ぶりはないだろう。いや、おもしろいけど。
「動けない」
「うわ! スイマセン」
麻衣が離れたところでまたシンクに手を突いた。気分が悪くなったんじゃない。おかしくなったんだ。麻衣があんまりオタオタするものだから。
漏れる笑いを必死になって殺した。麻衣は顔を真っ赤にして、陸に打ち上げられた魚のように口を開閉させている。侮辱されたとでも思っているんだろう。
そこでトースターが鳴った。
「あ、ごめんっ。すぐ作るからもうちょっと待って」
「分かった」
麻衣はバタバタとトースターに走り寄った。いても手伝えることはないだろうし、手伝わないほうがいいだろう。この僕が手伝いを申し出るなんて麻衣の精神衛生によろしくないから、あえて無言でキッチンを出た。
バスルームに入って洗面所で手を洗う。麻衣の手を握った時についた血を洗い流す。
血がトラウマだと麻衣には言ったが、自分自身に付着したもの、流したものなら別に平気だ。いくら残虐な殺人現場を見ていたといっても、血を全て恐れていては生活などできやしない。麻衣が出血していたという事態がトリガーだった。
リビングに戻ると、麻衣がトーストの載った皿をテーブルに置いた姿勢のまま、物憂げな風情で立っていた。喜怒哀楽が出やすい彼女だが、哀の表情は初めて見た。僕の過去に思いを巡らせてくれているんだとしたら、どうにも胸が詰まった。麻衣を憂えさせたくて話したわけじゃないのに。
ふいに麻衣はぽつりと漏らした。
「それでもナルなんだから、いい」
麻衣は自分の言葉に納得したようで、足取り軽くキッチンに戻って行った。
――僕は麻衣を騙
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