第三章 始祖の祈祷書
第五話 竜の羽衣
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おじいちゃんが同じ国の人だったなんて……なんだか運命を感じます」
シエスタはどこかうっとりとした顔でそう呟くと、何かに気づいたのか、顔をハッとさせると、士郎に顔を向けた。
「それじゃひいおじいちゃんは、本当に“竜の羽衣”でタルブ村までやって来たんですね」
「“竜の羽衣”か……シエスタ、これの本当の名前は、“竜の羽衣”という名前じゃないぞ」
「? それじゃ、なんて言うんですか」
士郎は少なくとも半世紀は経っているにもかかわらず、錆の一つも浮いていない濃緑色をした機体を見上げた。
竜の羽衣か……確かにその形は、翼を広げた竜に見えなくもない。
全長九メートル、全幅十五メートル、全高三.五メートルあり、総重量は約二トン。その圧倒的な大きさとなにより何も説明しなくとも、人を殺戮するための“兵器”としての気配を漂わせるそれを、何も知らない者が見れば恐怖を覚えることだろう。
その恐怖と巨大さに、竜を感じた者が名づけたのだろうか?
翼と胴体には赤い丸の国籍標識があり、もとは白い縁取りが為されてらしいその部分は、機体と同じ塗料で濃緑に塗りつぶされていた。そして、黒いつや消しのカウリングに白抜きで書かれた“辰”の文字。部隊名であったのか、奇妙な偶然に士郎は苦笑いする。
“破壊の杖”と同じもの……魔法世界にあって、強烈な違和感を放ちながらも、圧倒的な存在感を誇るもの。
あるはずのないもの……六十年以上も昔の戦闘兵器。物言わぬ兵器……天かける翼……“竜の羽衣”。
そして……
士郎は“竜の羽衣”を見つめ直したあと、彼女の面影が感じられるシエスタに振り向くと言った。
「ゼロ戦……昔の戦闘機だ……」
「ぜろせん? せんとうき?」
「人を乗せて空を飛ぶものだ……シエスタ、君のひいじいさんは間違いなくこれに乗ってやってきたんだ……」
「……これに……」
“零戦”――零戦は、大戦初期において、その長大な航続距離、重武装、優れた格闘性能により、連合国の戦闘機に対し圧倒的な勝利を収めるほどの優秀な機体であり、当時の連合国パイロットからは“ゼロファイター”の名で恐れられていた機体。
そして……
あいつのじいさんの機体か……
その日、士郎たちはシエスタの生家に泊まることになった。貴族の客を泊めるとなって、村長までが挨拶にくる騒ぎになった。
士郎はシエスタの家族に紹介された。父母に兄弟姉妹たち。シエスタは八人兄弟の長女だった。父母はシエスタが頬を染めて士郎を紹介するのを見て、品定めをするように士郎をじろじろと見つめる。母親は士郎の体つきと顔を見ると、シエスタにニヤリと笑い掛け一つ頷いてみせたが、父親は難しい顔をしたまま俯いていた。
そんな家族
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