第十話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その4)
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「美味しいわね、サビーネ」
「はい、お母様」
リッテンハイム侯爵夫人が娘のサビーネとティラミスを食べている。二人ともニコニコ顔だ。こうして見ていると何処にでもいる母娘だな。というより何処にでもいる家族か。居間には俺の他にブラウンシュバイク大公夫妻、エリザベート、リッテンハイム侯爵夫人母娘が居る。和気あいあいだ。
「そうでしょう、エーリッヒはケーキ作りが得意なのよ。養子に迎えるよりパティシエとして迎えた方が良かったかも」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら大公夫人が言うと皆が笑った。笑えないのは俺だけだ。
「失敗だったかな、アマーリエ」
「どうかしら、まあケーキを作れる息子と言うのも悪くないわ」
「良かったな、エーリッヒ。息子として認めて貰えたようだ」
また笑い声が上がった。頼むよ、仲が良いのは分かるが俺で遊ぶのは止めてくれ。
「しかし義父上が甘いものが好きだとは思いませんでした」
「この人、お酒も好きだけど甘いものにも目が無いの。糖尿病が心配よ」
大公が夫人の言葉にちょっとバツが悪そうな表情をした。公爵とか大公とか言ったって女房には弱いか。まして相手は皇女だからな、頭が上がらんのだろう。
だとしたら俺はどうなるんだろう。小糠三合持ったら養子に行くなって言うよな、養子先は公爵家? 先が思いやられる……。エリザベートを見た、美味しそうにティラミスを食べている。大丈夫かな。
「この人が髭を生やさない理由を知ってるかしら?」
「おいおい、アマーリエ」
「良いじゃないの。リッテンハイム侯が髭を生やしているのにこの人が生やさない理由は……」
大公夫人は言葉を切ると悪戯っぽい表情で周りを見渡した。大公だけが困ったような顔をしている。
「お髭に生クリームが付くと威厳が無くなるから」
皆が笑い出した。悪いが俺も笑わせてもらった。大公も苦笑している。エリザベートが“本当なの、お父様”と訊くと大公は曖昧に頷いた。その有様に皆がまた笑った。
楽しい一時を終わらせたのはアントン・フェルナーの声だった。
「公爵閣下、御寛ぎの所を申し訳ありません」
「お客様かな」
「はい」
「例の方達かな」
「はい」
大公と顔を見合わせた。リッテンハイム侯より馬鹿どもがこの屋敷に来ることは聞いている。先程までの和気あいあいとした空気は消えていた。女性陣も沈黙を守っている。
「申し訳ありません、来客のようです」
「御苦労だな、エーリッヒ」
「いえ、それほどでは有りません」
「わしに遠慮はいらぬ、ブラウンシュバイク公爵家の当主はお前だ。好きにやるがよい」
「はい」
席を立ち軽く一礼してから離れる。フェルナーが先に立って歩き出した……。
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