第十話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その4)
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平静な気持ちではいられません。まして我々貴族の血が平民によって流されたのです」
ヒルデスハイム伯を補うようにシェッツラー子爵が言葉を続けた。なるほど、こいつらの狙いはミッターマイヤー少将か。
「コルプト子爵は釈明の機会を与えて欲しいと言っております」
今度はカルナップ男爵だ。入れ代わり立ち代わり汚れたパンツが忙しい事だ。
「釈明だと」
「そうです。釈明の機会さえ頂ければ自分に反逆の意思が無かった事を証明できる。全てはベーネミュンデ侯爵夫人に罪が有るのだと言っております」
ミッターマイヤー少将を殺せれば、ベーネミュンデ侯爵夫人の事などどうでも良いという事か。コルプト子爵は侯爵夫人を徹底的に利用するつもりだ。彼女に全ての罪を着せそして自分は望みを叶えようとしている。哀れな女だな、侯爵夫人。そなたはミッターマイヤー少将の命と引き換えに今売られようとしている……。
「幻の皇后などと呼ばれて少し増長したようですな。侯爵閣下も不愉快では有りませんでしたか」
「……」
妙な目で皆がこちらを見ている。……なるほど、そういう事か……。
こいつらは私と取引をするつもりだ。侯爵夫人はブラウンシュバイク公爵家とリッテンハイム侯爵家に対して敵意を隠さない。脅威ではないが目障りな存在だ。これを機に侯爵夫人を処断してはどうかと誘っている。そしてその代償がミッターマイヤー少将だ。
ブラウンシュバイク公の所ではなく私の所に来たのもそれが理由だ。ブラウンシュバイク公爵家は既に代替わりをし、しかも当主は養子だ。これでは取引は難しい。だがリッテンハイム侯爵家は違う。この連中は私なら取引が可能だと見た……。
「卿らはミッターマイヤー少将の命をコルプト子爵に委ねろと言うのだな。私にブラウンシュバイク公を説得しろと」
私の問いかけに誰も答えなかった。つまり反対者はいないという事だ。
「筋が違うな」
敢えて冷淡に答えた。こいつらと取引する必要などない。
「あの遠征の総司令官はブラウンシュバイク大公だった。大公はコルプト大尉を射殺したミッターマイヤー少将を咎めなかった。少将の行為は軍規を正しただけで問題は無いと判断したのだ。総司令官が判断した事を卿らがどうこう言う資格は無い」
「しかし」
抗議しようとするヒルデスハイム伯を手で制した。
「この件は私とブラウンシュバイク大公、ブラウンシュバイク公の間で話し合い、公が預かる事になっている。話が有るなら公の所に行くのだな。幸い今日は屋敷に居るはずだ。今の話を彼にするが良い、御苦労だった」
「……」
汚れたパンツよ、さようならだ。さてもう一眠りするか。
■ 帝国暦486年 8月 2日 オーディン ブラウンシュバイク公爵邸 エーリッヒ・フォン・ブラウンシュバイク
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