二十九 水面下
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だと彼女は思っていた。頼るのは甘えであり、甘えは人を弱くする。自分は強くなりたいのだ。力が欲しいのだ。だから頼ってはいけないのだ。
誰かに頼る、といった手段を知らない彼女はただひたすら印を結び続ける。たとえ思い込みであっても、それを間違いだと指摘する者さえナルにはいなかった。
どれくらい経っただろうか。
ひたむきに修行に打ち込んでいた彼女の耳に、男達の声が入ってきた。
「ここらは釣りの穴場なんだぜ」
「ほんとかよ」
談笑しながらこちらに歩いてきた里の男達は、ナルの姿を目にした途端、動きを止めた。露骨に顔を歪める。
「げえっ」
「おいおい…アイツがいるぞ」
「最悪。今回は諦めようぜ」
あからさまにナルを避けて、彼らは再び元来た道を辿る。己がいることで釣りを諦めた男達の背中に、ナルは何も言えなかった。輝く水面に彼女の寂しそうな横顔が映り込む。
いつ自分は認められるのか。どうしたら波風ナルという存在を受け入れてもらえるのか。いつになったら……。
数羽の白い水鳥達がナルの顔に波紋を残して通り過ぎていく。波紋は水面を歪ませ、彼女の心象を水鏡に描く。ゆっくり消えてゆく泣き顔。残ったのは、小さなさざ波。
「…よっし!続き、続き」
暫く男達の後ろ姿を見送っていたナルは、気を取り直したように顔を上げた。わざと明るい声を出す。再び印を結ぼうと手を組み直した刹那、目の前で水鳥達が一斉に飛び立った。
だしぬけに羽ばたいた鳥の群れ。白い翼を広げ、空高く舞い上がってゆく。視界を白に覆われ、「わっ」とナルは思わず目を瞑った。
「こんにちは」
突然、何の前触れも無く声がした。どこかで聞いたことのある澄んだ声。不思議と、懐かしいといった感情がナルの心に一瞬過った。
そっと目を開ける。前方に、天使が見えた。
宙からゆっくり降りてくる白い羽根。風に乗ってたゆたうそれらは、太陽の光を透かして琥珀色に染まる。視線の先に、琥珀の両翼を広げた天使をナルは見出した。
真っ先に目に入ったのは自分と同じ金の髪。自身より濃い青の瞳に、翼と見間違えたのであろう白き羽織。今にも天へと翔けてゆきそうな錯覚。空に溶けてしまいそうな透明感。
その両方を兼ね合わせる、どこか幻想的な光景に彼女は見惚れ、そして立ち尽くした。
だがその天使の顔はなぜか自分に瓜二つである。その事実が彼女を正気に戻した。ぱちぱちと瞳を瞬かせる。
「また会ったね」
羽根向こう、ナルとよく似た少年――うずまきナルトが笑みを浮かべて立っていた。
「まさか、こんなところで会うとはの…」
頭上に渦巻く灰色の雲。どんよりと濁っているにも拘らず妙に明るく、また一向に振り出す気配はない。
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