高校一年
退路は既に
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か。まぁいい。こいつを回してくれ」
名簿を回収した浅海が5人に手渡したのは、「三龍高校野球部の掟」と題された小冊子だった。
「私は寮監でもあるが、硬式野球部のコーチもしてるんだ。乙黒が作ったこのしょうもない冊子を読んでやってくれ。つまらない反復法と誇張法でごくごく当たり前の事をダラダラと書き綴っている本だ。トイレで尻を拭くのに使っても良いぞ」
浅海は5人に渡したのと同じ冊子を手に取り、パラパラとめくって、そして机の上にポイと放り投げた。恐縮したように座っている生徒に対して、浅海は足を組んで座り、その物言いからも相当なフリーダムさが見て取れる。女性でありながら男言葉を使い、奔放である。浅海は、部屋に集まった5人の顔をマジマジと見つめた。
「……しかしまぁ、今年は鍛え甲斐がありそうだなぁ」
まず宮園に視線が向いた。
「水面西ボーイズの3番捕手、宮園光に…」
次に美濃部と渡辺
「日麻脇地区大会ベスト4日麻脇東中の3番セカンド・渡辺功に、5番ピッチャー美濃部健太」
鷹合を見ると、その時だけ浅海の目つきが鋭くなったのは気のせいだろうか?割と根に持つタイプなのかもしれない。
「そして、ボーイズ全国ベスト8の卯羽目タイガースのエース・鷹合廉太郎。この辺り、練習会にも来ていたな。」
名前を呼ばれた奴はこくこくと頷くが、翼だけは取り残されていた。まるでよそものの翼に、浅海は最後に目を向けた。
「で、君の事は知らんのだ。自己紹介してくれ。えーと、好村君?」
やっとマトモな自己紹介の機会を与えられて、翼は緊張もするが、一方でホッとした気持ちにもなった。やっとこれで、自分の事を認知してもらえる。1人だけがハブられた感じから解放される。
「木凪地区大城島太地南中学から来ました、好村翼です!好きな食べ物は…」
「いや、食べ物は良いから利き手とポジションを言ってくれ」
「あ、はい…左投げ左打ちで、ポジションはピッチャーを希望してます」
「ふぅん」
浅海は頬杖をついて、視線を宙に泳がせた。
「木凪…木凪……あ、もしかして君はあれか?乙黒を草野球で抑えたとかいうアレか?」
「あ、はい。そうです、多分。」
浅海はクックックと、引き笑いした。
「あー、乙黒が言っていたような気がするよ。今思い出した。たかが草野球で抑えられただけなのに、家まで行ってスカウトする乙黒も乙黒で阿呆だが、それに律儀に応えて、君は遠い所からわざわざこんな所まで来た訳だな?ところで、中学ではどこまで行ったんだ?」
「えーと、どこまでって」
「大会で何回勝ったって話をしてるんだよ」
「いやー、そもそも大会に出てないというか、野球部入ってないというか」
浅海はアッハッハと笑った。
「みんな聞いたか
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