Episode1 『シン』という青年
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「―――最後だから話しておこうと思ったんだ」
僕は巨大な碑に右手で優しく撫でる様に触れながら、そう語りだす。しかし、周囲には、誰一人としていない。だから、他の誰かの耳に届くことはない、他の誰かの記憶に残ることはない。あるのは目の前の巨大な碑だけ。
―――それは、一万人のプレイヤーの名前が刻まれた碑。
―――それは、まだこの世界で生きていることを証明できる命の碑。
―――それは、もうこの世界から退場となったことを告げる残酷な碑。
この世界で、その機能だけを果たす為に存在するただのオブジェクトだ。当然話しかけても、何も答えてはくれない。そんなことは僕も十二分に理解している。だけど―――、
「さて、どこから話そうかな?あっ、つまらない話かもしれないけど、最後まで聞いてくれると嬉しいかな」
僕は、構わず続ける。耳が痛くなる様な静けさの中、僕の声だけが響き渡る。もしかしたら、ここに名前の刻まれた人たちの誰かが聞いてくれるかもしれない、システムが記憶してくれるかもしれない、という一縷の望みを込めて僕は語ることにした。
「僕は憧れているものがあるんだ」
それは、ヒーロー、英雄、勇者、正義の味方。漫画やゲーム、アニメでは定番で、物語の主人公がそう呼ばれることが多かったりする。さらには、実際に過去で偉業を遂げ伝説となった人たちも当てはまるかもしれない。
「きっかけは、とある小説の主人公」
あまり、漫画を読んだり、アニメを観たり、ゲームをするほうじゃなかった僕に昔、親友がしつこく薦めてきたので、仕方なく読むことにした。そのとき、僕はそのとある小説の主人公に憧れと、尊敬を抱くようになった。
「小さい子供じゃあるまいし、と笑われるかもしれない。だけど、僕は本当にその小説の主人公に魅せられてしまったんだ」
きっかけは、偶然。しかし、その偶然が僕の心に深く、深く染み渡っていった。架空の人物だと頭では理解している。しかしその人物は、確かにその物語の中で生きている。彼の意思、精神の強さに僕が惹かれたのは幻想なんかじゃない。超能力やら魔術などが入り乱れる中戦い続ける少年の話。自分の信念を貫き通す姿をカッコいいと思った。僕もそうなれたらと何度も思った。けれど―――、
「僕にはなかなか信念を貫き通す生き方はできなかったよ」
僕は、そう呟きながら苦笑する。自分の信念を貫く生き方や理想を追い求めることは、大人になるにつれ難しくなる。僕がこの世界に足を踏み入れた、2022年11月6日。このとき僕は十九歳。まだ、成人を迎えていなかったけど、一人の社会人として生活していくために働いていた。まぁ、社会人といっても、高校を卒業してすぐに就職したので、まだまだ世の中のことをこれっぽっちも分かってはいない
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