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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十話 一年
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宇宙歴 796年 1月 3日    ハイネセン  最高評議会ビル  ジョアン・レベロ



通信は終了しヴァレンシュタインの姿がスクリーンから消えると会議室には重苦しい空気が漂った。最高評議会のメンバーは口を噤んだまま顔を見合わせている。そんな皆にトリューニヒトが苦笑を漏らした。そして“どうしたのかね”と問い掛けた。性格が悪いぞ、トリューニヒト。皆が何を考えているか分かっているだろう。

「いや、彼は何者なのかと思ってね?」
トレルが問い掛けるとトリューニヒトはまた苦笑を浮かべた。
「エーリッヒ・ヴァレンシュタイン中将。同盟軍史上最年少の将官だ。おそらくはリン・パオ、ユースフ・トパロウル、ブルース・アッシュビー元帥よりも早く元帥になるだろう」

「そうではないんだ、議長。私が言いたいのは……」
トリューニヒトが手を上げてトレルを遮った。
「分かっている、分かっているよ、トレル経済開発委員長。君の言いたい事、いや君達の言いたい事は。彼が怖い、恐ろしい、そうだろう?」
トリューニヒトが見回すと皆が頷いた。

「君は、いや議長は恐ろしくは無いのか?」
恐る恐ると言った感じでラウドが問い掛けるとトリューニヒトは首を横に振った。
「恐ろしくは無いな。彼に野心が有るならあの才能は危険だが彼には野心が無い。必要以上に恐れる事は無い」

「そう言いきれるほど彼を理解していると?」
ボローンが質問するとトリューニヒトは天を仰いで“ウーン”と唸った。
「多分ね。まあ例えてみれば彼は切れ味の良すぎる名剣かな。余りに切れ味が良すぎるので周囲からは魔剣ではないかと疑われているようなものだ」

皆が顔を見合わせている。半信半疑、そんな感じだな。私自身は結構的を射た評価だと思う。あの小僧は口は悪いし性格も悪い、しかし野心や邪気は感じられない。生意気で腹立たしい小僧ではあるが危険な若造ではない。いや危険は有るかな? まるで手品のようにフェザーンから金を巻き上げた。阿漕なやり方だが政府に金が無いから非難も出来ん。多分和平終結後の経済振興対策に使われることになるだろう。気に入らないのはあいつがいると自分が馬鹿になったような気がするからだ、不愉快ではあるな。

「ボローン、君は彼の所為で痛い目を見ているだろう?」
ボローンが顔を顰めた。例の情報漏洩の件か。
「私もあの件では彼に苦汁を飲まされた覚えがある。シトレ元帥も机を叩いて激怒したそうだ。しかし事が終わって振り返ってみれば彼のした事は間違いではなかったと思う。少なくとも国家にとっての不利益では無かった。その辺りの配慮は出来る男だよ」
「ふむ、……そうかもしれん」
ボローンの答えにトリューニヒトが声をあげて笑った。

「まあ付き合うのは大変だ。口は悪いし、性格も悪い、おまけに
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