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打球は快音響かせて
第一話 ひょんな事から
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らした。
その視線の先には、焼けた健康的な肌、少し丸い輪郭に、引き締まった体つきの女の子が、他の女子と話している様子があった。

「…俺には葵も居るからなぁー」
「なにぃー!このクソ女たらしがー!」

武はヘッドロックを翼にかける。
翼は鼻の下を伸ばしたまま、締め上げられて悲鳴を上げた。



ーーーーーーーーーーーーー


「行った方がよかっち思う。」

葵と帰宅している途中、彼女が言った言葉に翼は耳を疑った。

「せっかくの誘いよ?行った方がよか」

もう一度言われて、ようやく翼は理解できた。
この自分の彼女は、自分に乙黒の誘いをうけて、水面の三龍高校に進学した方が良いと言っている。

「翼ねぇ、野球上手いのに、真剣に部活でやろうとせんし、勉強もそこそこできるのにあたしに合わせてアホな高校入ろうとするし、もったいない事しかせんけん。もっと何かに本気になりーよ。」
「ハァ?俺は毎日本気で泳いでるし、本気でお前の事をだなぁ」
「本気なら、あたしの誕生日忘れたりせんけ!」

跳ね返されるように言われて、翼は「半年以上前の事まだ覚えてるのかよ…」とたじろぐしかなかった。中2から付き合っているこの彼女相手には、翼は引くしかないのだ。

「あんねぇ、翼ねぇ、もうちょっと自分の才能に向き合えんと、他人にもちゃんと向き合えなかよ?水面の街でね、揉まれてきんさいよ」

この中3とは思えないくらいのお節介焼きの彼女の話は、すぐにこう説教口調になる。

「……あたし、こっちで待っとるけん」

そして、最後にこんな事を言って、顔を赤らめるくらいの可愛げはある。

「…………」

そしてこの彼女の言葉を真摯に受け止めてしまうくらい、翼は素直な少年であった。



ーーーーーーーーーーーーー


こうして、木凪諸島の少年、好村翼は、高校球児となる道を選んだ。選んでしまった。
彼が得られるはずだった、南の島でのスローライフはこの時点でもうひとつの可能性、パラレルワールドの彼方に行ってしまった。可能性を追うという事は、もう一つの可能性を捨てるという事でもある。

翼の追い求めた可能性の行く末は、いかに。


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