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打球は快音響かせて
第一話 ひょんな事から
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相手チームのマウンドには、やたらと幼い左投手が居た。乙黒は傍の人に尋ねた。

「あれ?子ども居るんですか?」
「あぁ、翼ね。大澤さんトコで最近よう投げよるんよ。中学生やったかな。確か野球部やなかったけんどね、ええ球放るよ」
「へぇ…」

乙黒は目つきが一気に鋭くなった。

「おうおう、中学生と聞くや目つき変わるのぅ、"監督"!」

囃し立てられて、乙黒は苦笑いする。
そしてバットを手にとって、打席に向かう。

「野球部に入っても無い子はスカウティングの対象外ですけど、まぁ甲子園球児の格は見せとかないといけませんね…」

左打席に構える乙黒。
翼はマウンドでニンマリとした。


翼は振りかぶり、右足を高々と上げ、そして真っ向から投げ込んだ。
初球から、快音が響いた。




ーーーーーーーーーーーーー



「何やあいつ、全然大した事なかったやんけ」
「草野球リーガーの俺に5-0だからなぁ〜」

日が沈みかけた夕暮の街を、武と翼の二人乗り自転車が走っていた。
空には鳥が飛んでいる。潮風が汗をかいた後の体に心地よかった。

「あいつ、ホンマに甲子園ボーイだったのかな?」
「嘘かもな、俺らに5タコやけ!」

アハハと、2人は赤く染まった空に向けて高笑いした。



ーーーーーーーーーーーーー


「息子さんには才能があります。是非とも我が三龍高校野球部に入部して頂きたいのです」

気がついたら、こうなっていた。
翼はそう思うほかなかった。
本当に軽い気持ちでやった事だったのに。
この乙黒という男はその日の晩に、自宅を訪れていた。どうやら、水面地区の、三龍高校とかいう高校の野球部監督をしているらしい。本当に、全然大した事ない奴だったのに。

「翼君の、あの足を高く上げたフォーム、ものすごいバネと柔軟性があります。糸を引くように球も来ますし、何よりタイミングが全然合いませんでした。天性のモノですよ、これは」

親に力説してる乙黒の様子を見ても、翼にはこの男が自分が打てなかった言い訳をひたすらしてるようにしか見えなかった。
親に相手を任せて、翼はとっとと寝た。



ーーーーーーーーーーーーー


「翼、お前、乙黒にスカウトされたみたいやんけ!」

その次の日、武が朝っぱらから声をかけてきた。一体どこから伝わったのか、これが田舎の怖い所である。それぞれの家庭の事情も何もかも筒抜けだ。

「いや、まぁなー。でも、本気かどうか分からないし。」
「誘いに乗ったとしたら、あん人水面の監督やけ、越境になるなぁ」
「ホントそれなんだって。俺な、ここの海泳ぐのマジ好きなんだって。考えられねーわ、越境なんて。それにさ…」

翼は武から目を逸
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