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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第55話 「ジークフリード・キルヒアイスの憂鬱」
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 宰相閣下、あなたはいったい姉である夫人をどう扱っていたのでしょうか……?
 考えると怖くなったので、底まで知りたくありませんがっ!
 気にはなります。
 ですが一つ解ってしまいました。
 宰相閣下はまだまともだったんですね。
 俺様ぶりや口調の悪さで、勘違いしがちですが、行動そのものは理性的で、道徳的にも良識の範囲内ですし。
 ……良かった。
 ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウムが皇太子で。
 夫人がもし仮に男性で皇太子であれば、きっと帝国は崩壊していたはずです。
 夫人達は良くも悪くも、五百年続いた帝国の皇族らしいお方なのでしょう。
 けっ、ろくなもんじゃねえ。
 あーわたしもずいぶんやさぐれてしまったものだ。
 ブラウンシュヴァイク家に行っているラインハルト様も、きっと今頃は苦労なさっているに違いない。
 ルドルフ大帝が甦って、子孫である夫人達を怒鳴りつけてくれないものだろうか?

「ルードヴィヒが現れて、わたくしを足蹴にするというのですか? た〜す〜け〜て〜」

 ほんといったい、なにをしたんでしょうか?
 ガッツだぜ。
 全ての障害はただ進み、押し潰し、粉砕する。
 立ちふさがる者があれば、たとえ親兄弟であろうとぶちのめす。
 そこに遠慮などいるものか。
 俺の前に立ちふさがったのが、間違いなのだ。
 ああ、宰相閣下の幻聴が聞こえてくる。
 あのお方の言いそうなことだ。あれぐらい割り切れたら人生楽しいかもしれない。
 あれ? そういえばラインハルト様も似たような部分がある。
 ひょっとして二人とも根っこの部分は似ているのかもしれない。
 意外な発見だ。
 ラインハルト様に言ってみよう。
 たぶん顔を真っ赤にして、否定するかもしれないが。
 宰相閣下は今頃気づいたのか、なんて言いそうです。なんだか楽しくなってきました。

「その笑み、まるでルードヴィヒのようです。こないで〜」

 ほんと宰相閣下のように足蹴にしてやろうか?
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