第一章
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それ行け広島カープ
根室千佳は自覚はないがかなりのカープファンだ。生まれも育ちも神戸であるがそれでも広島東洋カープを心から愛している。
その千佳にだ、兄の寿はいつもこう言った。
「何で阪神じゃないんだ?」
「悪い?」
「いや、だから何で広島なんだ」
こう言うのだった、いつも。
「関西なのに」
「好きなのに理由なんてないでしょ」
千佳はいつもあっさりと兄にこう返した。
「だってお兄ちゃんだって阪神好きなのに理由がある?」
「僕はあるぞ」
兄の返事はこうだった、やはり常に。
「この身体には血液の他に黒と黄色の阪神液が流れてるんだからな」
「それ嘘でしょ」
「心の中に流れてるんだよ」
「今さっき身体って言ってなかった?」
「言葉のあやだよ、まあカープならいいか」
寿はとりあえず言うば広島への寛容な姿勢も見せた。
「別に」
「これが巨人だったらよね」
「そんなの決まってるだろ、更生施設行きだよ」
他に選択肢は一切ないという返事だった。
「巨人なんてな」
「安心して、私も同じ考えだから」
千佳はその兄を見つつ言う。
「お兄ちゃんが巨人ファンなんて嫌だから」
「そうだろ、だから僕にはな」
ここでまたこう言う兄だった。
「阪神液が流れてるんだからな」
「それでなのね」
「そうだよ、阪神しかないんだよ」
まさにトラキチの鏡とも言える言葉をだ、寿はいつも語るのだった。
「今年こそ優勝だからな」
「まあ精々頑張ってね、全くうちときたら」
ここで毎回溜息になる千佳だった、そして言うことは。
「またBクラスみたいね」
「クライマックスで待ってるからな」
「はいはい、どうせ出られないから」
本当にいつもこう言うのだった。
「赤貧球団でフリーエージェントでどんどん選手が出て行って。若手は故障してって」
「そっちは大変だな」
「私胴上げ知らないから」
カープの胴上げ、それはというのだ。
「黄金時代なんてね」
「江夏さんそっちにいた頃か」
「そんな昔のことなんて知らないから」
まだ小学生の千佳が知る筈もないことだ。その頃の話は。
「監督古葉さんよね」
「その頃だな」
「私最後の優勝の時も知らないから」
九十一年のことだ、二十一世紀生まれの千佳にとってはそんな時代のことはまさに大昔どころか古代のことだ。
「古文書に書かれてる頃の話でしょ」
「幾ら何でもそれは言い過ぎだろ」
「だって私が生まれる遥か前よ、お兄ちゃんだって生まれてない位じゃない」
「お父さんお母さんもまだ若い頃だよな」
寿もこう千佳に返す。
「それこそ」
「まさに古代じゃない、とにかくね」
「カープの優勝はか」
「私が生きているうちに見られるのかしら
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