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一つだけでなく
第五章
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「じゃあ宜しくな」
「何か変わったな」
「人はいつも変わるものだよ」
「いい方向か悪い方向かは別にしてな」
「俺もなんだよ」
 変わるとだ、キングはマネージャーに明るい笑顔で言う。
「それもよく変わるからな、俺は」
「じゃあもっといいダンサーになるんだな」
「その為にだよ」
 これまで見抜きもしなかった、彼がこれまでロートルとしか思っていなかった人達の踊りも観るというのだ。
「そうしていくからな」
「じゃあDVDとかチケットとかどんどん持って来るからな」
「頼むな」
 こう話してだった、そうして。
 キングは日舞や京劇、それにタンゴやバレエの現役ではなく引退した人やベテランの熟練のダンスも観ていった、そして。
 彼のダンスにも取り入れていった、、そのダンスはというと。
「キングのダンスは変わったな」
「ああ、さらによくなったな」
「そうだよな」 
 こう話すのだった、誰もが彼の変わったダンスを観て。
「これまでは勢いだけっていうかな」
「身体の動きのよさと若さからだったからな」
「キレとか音楽への反応もよかったけれどな」
「そこ止まりだったよな」
「これまでのキングはな」
 確かに素晴らしかった、しかしそれは若さから来るものだけにとどまっていた、そうしたダンスだったというのだ。
 しかしだ、今の彼のダンスはというと。
「今は音楽を聴きながらそれと一体になってな」
「力が抜けてな」
「自然になったな」
「そうだよな」
 踊りが自然体になったというのだ。
「スピードじゃなくて流れる感じにな」
「そうなったな」
「自然とな」
「そうなったよな」
「これまでと段違いだよ」
 格段によくなったというのだ。
「速球とスタミナだけのピッチャーが技を身に着けたな」
「色々な変化球とか緩急、バッターへの読みもな」
「そうなったな」
「コントロールもよくなったな」
 一流から超一流になったというのだ。
「あれならこれからもずっと大丈夫だな」
「やっていけるな」
 それが変わったキングのダンスだった、彼はそうした声を聞いても言った。
「ダンスってのは一つじゃないな」
「ミュージカルとか京劇とかの種類じゃなくてだな」
「ああ、若い奴がするだけじゃないんだよ」
 朝に軽い食事、アメリカ人にしては随分なサラダとベーコンエッグ、野菜ジュースを口にしながら上演先のロスのホテルでマネージャーと話す。
「歳を取ってもするからな」
「だからだな」
「力も抜いてな、技と流れでな」 
 それでやっていくべきだというのだ。
「やっていくやり方もあるんだよ」
「それでそうした人達の踊りも観たんだな」
「今もな」
 そうしているというのだ。
「ダンスは本当にな」
「一つじゃなくてか」

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