第一章
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一つだけでなく
ハワード=キングはニューヨークでも知られたダンサーだ。
褐色の肌に痩せた身体、そして黒い髪をアフロにしている。背は一八〇程だ。実はバスケットボーラーになりたかったが。
「背がな」
「バスケは背だからな」
「ああ、俺はチビだからな」
一八〇でもそうだ、バスケの世界は特に背が要求されるのだ。
「だからそっちは諦めてダンサーになったんだよ」
「そういうことだな」
「そうだよ、まあこっちでやっていってるからな」
だからいいとだ、キングは明るい顔で仲間に話す。その顔も痩せていて黒い目をゴーグル型のサングラスで隠している、ファッションは軽快なそれこそニューヨークの街にいれば幾らでもあちこちで見る格好だ。
ある店でダンサー兼バーテンとしている、そのバーテンの身のこなしも実に軽やかだ。特にステップがいい。
くるくると回転するステップだ、これが彼の売りだ。尚バーテンとしての技術と接客でも評判がある、歌もだ。
彼は客達にもだ、笑顔でこう言うのだった。
「まあ俺位のダンサーはいないな」
「言うねえ、ニューヨークにはか」
「この街にはっていうんだな」
「ニューヨークだけじゃねえさ」
ブロードウェイがありまさに世界のダンスのメッカであるこの街はおろかだというのだ。
「アメリカ、いや世界にもな」
「あんた程のダンサーはか」
「いないってか」
「そうさ、いないさ」
自信に満ちた笑顔での言葉だ。
「断言するさ」
「実際にそうだったらいいな」
「世界一ならな」
「俺は嘘は言わないさ」
少なくともそのつもりはない、彼は自分では正直だと確信しているし嘘を言うことは嫌いなのだ。
「だからな」
「じゃあこれからはか」
「この店から世界に出るんだな」
「もうその話になっててな」
早速だというのだ。
「今度ブロードウェイでもデヴューするさ」
「おお、それはいいな」
「じゃあ観に行くな」
「それでそこからな」
そのブロードウェイからだというのだ。
「あっという間に世界一のダンサーってことを見せてやるぜ」
「ああ、そうなってくれよ」
「その時はテレビで観るからな」
客達も笑顔で応える、そしてだった。
彼はブロードウェイにデヴューしその言葉通り瞬く間にそこでもトップダンサーとなり世界でも名を知られる様になった。そしてだった。
世界中で引く手あまたとなった、世界のあちこちを舞う程だった。
彼はインタヴューでもだ、こう言うのだった。
「俺は世界一のダンサーだからな」
「おお、言うね」
「世界一だね」
「そうさ、世界一だからな」
屈託のない自信に満ちた笑顔だった。
「俺以上のダンサーはいないさ」
「じゃあ他の踊りでもか」
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