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チョンチョン
第二章
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 何もいない、それで首を傾げさせて言うのだった。
「何やねん、一体」
 ハラロスは何もいない、蛾さえも見えず不思議がった。
「何もおらんやろが」
 しかしだ、声はまた聞こえてきた。
「チョン、チョン」
「チョン、チョン」
「チョンチョンっておかしな声やな」
 人間の声でそう言っている感じだ、それで彼も妙に思うが。
 周りは誰もいない、そして動物もだ。今は虫も見えないので余計に不思議だった。だがこのことを覚えていて。
 それでだ、次の日一応同じ会社にいる仕事仲間に昨日の鳴き声のことを尋ねた。
「チョンチョンって鳴く声が聞こえたんや」
「チョン、チョン?」
「そや。何か知ってるか?」
「それひょっとしてチョンチョンじゃないのか?」
 同業者はハラロスから視線を逸らしながら答えた。視線が合うとそこから因縁をつけてきて殴ってきたうえで金まで取って来る様な男だからだ。
「言い伝えの」
「チョンチョン、何やそれ」
「メキシコに昔からいる妖怪だよ」
「妖怪かいな」
「そうだよ、姿は見えないけれどな」
 それでもだというのだ。
「いるんだよ。姿は人の首でな」
「身体はないんやな」
「人間の首で耳が異様に大きくてな」
 仕事仲間は目を逸らしたまま話す。尚ハラロスは相手から視線を逸らされていると自分が恐れられていると認識して悦に入る人間だ。圧倒的な暴力を振るい生徒に恐れられて喜んでいる日本の教師と同じタイプの人間なのだ。
「その耳で空を飛ぶんだよ」
「それはまたけったいな妖怪やな」
「人の零とか言われてるな」
 仲間はチョンチョンについてこのことも話した。
「何でもな」
「そうか。けれど姿は見えへんねんな」
「普通はな」
「どうしたら見えるんや」
「捕まえたら見えるんだよ」
 その時にだというのだ。
「だから姿もわかってるんだよ」
「そういえば姿が見えへんのにわかる筈がないわな」
「そうだろ、だからだよ」
「そういうことやねんな」
「まあ妖怪だからな」
 仲間はチョンチョンが妖怪であることからこうも言った。
「あまり関わらない方がいいな」
「何でや」
「こっちから何もしないけれどな」
 それでもだとだ、こう言った仲間だった。
「下手にちょっかい出したら動物でもやばいだろ」
「何や、その考え」
「何って。触らぬ神に祟りなしだよ」
 それだというのだ。
「だからな」
「おいおい、それは腰抜けの考えだろ」
 ハラロスは仲間のその考えと言葉にせせら笑って返した。
「俺はちゃうで」
「違うってまさか」
「捕まえたら姿が見えるんだな」
「それはその通りだよ」
「そやったらや」
 その持ち前の思慮のなさからだ、こう言うハラロスだった。
「俺は捕まえてチョンチョンの姿見たるわ」
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