第七話 Memory
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突然だが、人の死というのは、案外、身近にありすぎて実感できないものである。
己はその瞬間まで体験できず、他人のそれは漠然としてしか知りえることが出来ない。
親族、家族の死を目の当たりにしても、その瞬間、涙を流さない人間は、案外多い。
恐らく本当の悲しみに襲われていても、それを理解するまでに時間がかかるからだ。
漫画やアニメ、ドラマのように人が泣くのは、その瞬間を前々から覚悟していて、その時が来たという絶望感だ。
つまり、唐突な死においては、涙すら出ず、暫くその状況を把握するために頭が混乱する。
涙が出るのは、そこから暫く経って、二度と会えないという状況を理解し、実感した時だろう。
逆を言えば、理解できなければ、実感できなければ、真の悲しみというのは訪れにくい。
つまりSAOというこの『ゲーム』内空間において、その実感する、というのは実は非常に難しい。
どれだけリアルに精密に近づけていようと、所詮ゲームはゲーム。
傷がついたら出血するわけでもない、死んだら死体が残るわけでもない。
断末魔の悲鳴を聞いたところで、それは己の本当の耳で聞いたのではなく、電子化された音声をナーヴギアを通じて情報として得ただけだ。
SAOで人が死ねばデータの海へ還るようにキャラクターのデータが粉々になって散っていく。
そんな『非現実』的なものを前にして、すぐに理解できるだろうか。 すぐに泣けるだろうか。
少なくとも、玖渚はそれを理解するには、悲しみを得るには、実感するには。
余りにも幼かった。
彼女のような低年齢の少女がSAOを徹夜並んで買えるはずがない。
大人のアルス、天乃、レイカ等と違い、そんなことは親が黙っていない。
親に頼んで買ってもらった桜花のような学生と違って、親は小さな我が娘に、対象年齢13歳以上のゲーム機のネットゲームを、好んで与えはしない。
事実、SAOは内容だけで見ればR−18指定が入るような内容も含まれている。
となれば、親が子に与える確率は非常に低い。
さらにソフトは1万本限定だ。
つまり玖渚のような少女がSAOを入手できる確率は、天文学的な数値となる。
例えるならば、何も考えずに投げた小石がたまたま飛んできた鳥の頭にぶつかり、結果として射ち落としたのと同じような確率だ。
だが、玖渚は、その確率を突破する手段を持っていた。
歳の離れた兄姉の存在だ。
彼女の兄は24歳で社会人で、姉は19歳で専門学生だった。
玖渚は兄と姉に無理言って頼み、三兄妹揃ってSAOをスタートしたのだった。
2022年11月、一層。
始まりの一ヶ月で死んだ2000人。
その中に、玖渚の兄は含まれていた。
死因は極簡単。
一層にいた植物系
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