4 「MAYDAY, MAYDAY, MAYDAY;」
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天満深雪おばさまは、凪兄様を生んですぐに亡くなったんです。港お父様は奥様を亡くしてとても悲しみました。そして、彼女を―――いわば間接的に、殺してしまったお兄様を、恨むようになってしまったんです」
静寂が落ちた。
「え……だって、仕方ないじゃない!」
「はい、そうです。いくらお兄様でも、いえ、それはお兄様でも誰でも関係なく、どうしようもないこと。運が、なかったこと……。……お父様も頭では分かってるんです。けど、どうしても心が―――深雪おばさまを愛した心が、お兄様を許すことができなかったんです……。その上、深雪おばさまを奪ったお兄様は、子供らしさのまったくない、恐ろしいほどの鬼才でした。それは学術においてだけでなく、身体能力などに関してもでした。弱冠6歳にして狩猟武器――太刀を持ち上げ、それを初めて手に取った1ヵ月後、たった1人で5頭のギアノスを倒したんです。ギアノスというのは、ここでいうジャギィのような小型の鳥竜種です……6歳児ですよ?」
「な……」
それは、雪山草を取りに来ていたポッケ村の子供たちを守ろうとしたことでした。
村からそれほど遠くなく、普通はそこまでギアノスが近づかない場所ですから、大人たちも安心して子供を遣いにやったんです。それは下は4歳、上は12歳くらいの子供たちでした。その中に、初めて太刀を握って以来背中にいつもそれを担いでいる凪お兄様もいました。もっていた太刀はもう使い物にならないような古い、誰かのお古だったようです。ほとんど、ただの鈍器のような。
その日、いったい何がいけなかったのでしょう。いえ、誰も悪くなんてないのです。ただ、運がなかった。子供たちは、確かにその日、死神様のお迎えをいただいたんです。
草むらから突然出てきた5頭のギアノスを前に、マフモフに身を包んだ子供たちはただ叫び声をあげて逃げるほかありませんでした。しかし、子供の足では簡単に追いつかれてしまって、数名の大きな子供たち以外の幼い子たちは、5頭のギアノスに周りを囲まれてしまったんです。
そこから先、いったいどうなったのかはわかりません。ただ、命からがら逃げかえってきた子供の話を聞いた大人たちが、慌ててその場所へ向かったとき、目にしたものは―――
「―――真っ赤な血に染まった雪の中にたたずむ、血濡れた凪お兄様の姿でした。まわり、そう遠くないところには、恐怖に気絶している無傷の子供たちと、丈夫な皮をびりびりにされて、おかしな方向に体中が折れ曲がったギアノスの死体が5つ、あったそうです」
そして、それ以来、ナギは村の大人たちに“鬼の子”と恐れ、敬遠されるようになっていった。
死神の鎌を払いのける、鬼の忌み子。
確定の死すら薙ぎ払う、母殺しの男児。
人々の身の内に巣食うその恐怖は、ポッケ村から
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