4 「MAYDAY, MAYDAY, MAYDAY;」
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雪路は、1つ1つ思い出すようにゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
ポッケ村はご存知の通り旧大陸にあるいくつもの山脈のうちのひとつ、フラヒヤ山脈に近い雪山に抱かれた小さな村です。今はどうか知る術もありませんが、あのころ―――13年前、私が4,5歳のころは、ここユクモよりも小規模な、小さな村でした。
本当のことをいうと、凪兄様も私も、正式な生まれ故郷というのはないんです。それが、旅に生きる者の宿命というか。どこかからどこかへの路の途上で、生まれたんでしょう。これは我がシノノメ楽団に限ったことではなく、キャラバンや普通の旅団、たとえば特定の本拠地を持たない商業旅団などにも言えますから、別段珍しいものではないんです。ただお兄様がポッケ村を出身地としたのは……たぶん、そこに一番思い出が詰まっていたからではないでしょうか。…たとえば、それが良いものでも、悪いものでも。
ポッケ村は人口100人にも満たないような小さな村で、なぜシノノメ楽団が羽を休めたのかというと、ちょうど私の母が身重になったからです。ええ、汀と岬のことですね。つねに振動を受けているのは赤ちゃんにもお母様のからだにも良くないでしょうから、とりあえず近場の村に留まったのでしょう。幼くてあまり覚えていないのですが、どうやら悪阻もけっこう重かったようですし。
雪山にあることからもわかる通りとても寒い地にある村なんですが、そこに生きる方々はみなさんとても温かい人ばかりでした。雪山草という草が特産品でして、これは「万病に効く」とそこそこ高値で売れる薬草なんですよ。寒さの厳しい地でしか生えないんですけど。お名前ぐらいご存知でしょう?
「ええ、聞いたことはあるわ。そうか、山村だから寒いんだ。…だからあいつ寒さに強いのかしら」
「あはは…さあ、お兄様はいつもご自分のことには無頓着でしたから……」
困ったように笑った雪路は、お茶を一口口にふくむと、話をつづけた。
そのころには、すでにお兄様は子供としてはあり得ないほどの偉才を放っておりました。それはもう……大人たちが怪しむほどに。
「なに、そんな子供の時からあいつ天才だったわけ。妬けるわね」
「さっすがわたしたちの師匠!」
「同時期に生まれた誰よりも早くひとりで立ち、歩き、言葉も恐るべきスピードで習得していったんです。しかも、誰も教えていないようなことまで知っていたそうです。周りの大人も知らないようなことを、学び舎にも通っていない3歳児が、小難しい単語を並べ立てて一から説明していったとか……。大人は、凪兄様を恐れ厭いました。…お兄様が、港お父様を苦手にしているのは、ご存知ですか?」
「ええ。ちょっと前に、聞いたことあるわ」
「エリザちゃんとリーゼちゃんは、お兄様も心を許しているようですしお話するんですが…。お兄様のお母様――
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