アインクラッド 後編
Monochrome
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とが必要なこの世界では、精神的疲労は文字通り命に関わる。Mobとの連戦で疲れ果てたところをネームドモンスターに見つかり、そのまま……などと言う例は、挙げようとすればキリがない。
「いえ、それが……実は、さっき追い掛け回された時に使おうとして、落としてしまって……」
「予備は……?」
「……ありません」
男性は俯き加減に首を振って呟いた。柔和そうな顔には疲労が色濃く浮き出ていて、見るからに辛そうだ。
わたしは一度周囲を見回して、どうしたものかと首を捻った。このエリアは確かに主街区からも近く出現する敵も弱いが、ここから街まで一度のエンカウントもなしに帰れるかと言えば微妙なところ。そして、今の状態では、彼は次の戦闘には耐えられないだろう。
わたしたちのパーティーと合流して全員で帰ると言う手も、一応あるにはあるけれど……。
「……あの、よければこれ、使ってください」
わたしは一度首を左右に振ると、腰につけたポーチから一つの結晶を取り出して、青年に差し出した。目の前に差し出された青い結晶を見て、彼の目の色が一瞬で変わる。
「そ、そんな! これ、転移結晶じゃないですか!? こんな高価なもの、受け取れませんよ!」
「大丈夫。わたし、一応攻略組だから」
「で、でも……」
「いいから使って。ね?」
男性はなおも拒否しようとしていたが、わたしが強引に彼の手に転移結晶を握らせると、「ありがとうございます」と小さく呟いて転移していった。
「……ふぅ」
わたしは息を吐くと、待たせている皆のもとへ小走りで向かった。顔にぶつかる黄昏時の空気が、妙に冷たく感じた。
「……あ、エミさん。大丈夫だったッスか?」
「うん、大丈夫。こっちは?」
「問題ないっす。エンカウントもなかったですし」
「そう。よかった」
それから間もなく皆のところに戻ったわたしは、その報告を聞いて安堵した。HP残量や表情にも特に変わったところは見られないし、嘘ではなさそうだ。
「それじゃあ、そろそろ日も傾いてきたし、今日はこの辺で――」
今がちょうどいいチャンスだと感じたわたしは、出来るだけ笑顔でそう切り出そうとした……のだが……。
「あ、実は今俺らで話してたんスけど、この近くにダンジョンとかないッスかね? この際だし、ついでにダンジョンアタックとか行ってみよーぜ! って盛り上がっちゃって」
「え、あ、えっと……」
またも遮られた。
ダンジョンともなればここよりも難易度は上がるし、時間帯を考えればそうそうチャレンジもできないのだが……。
「……分かった。でも、ちょっとだけだからね?」
彼らの期待を込めた視線に流されて、わたしはいつものように、笑顔でそう言ってしまうのだった。
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