第九十五話 中田の決断その十
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「貴方は闘われますね」
「馬鹿で我儘だからな」
「それ故にですね」
「ああ、闘うぜ」
こう言うのだった。
「彼とな」
「ではその彼は」
聡美は止めることを諦めた、それでだった。
質問に切り替えた、その問いはというと。
「どの剣士でしょうか」
「それも言わないとな」
中田もこう聡美に返す。
「駄目だよな」
「はい、ですから」
「じゃあ言うな」
聡美の言葉を受けてだ、中田もだった。
確かな顔になりだ、こう答えた。
「上城君だよ」
「何故彼なのですか?」
聡美は中田の言葉、そこにある考えが余計にわからなくなった。それでこう中田に対して問い返したのだった。
「水の剣士なのですか」
「彼も剣道をやっているからな」
「だからですか」
「しかも随分と強くなってるしな」
「心身共にですね」
「闘いたいんだよ」
剣士としてだ、最後の最後にというのだ。
「それだけだよ」
「そこに深い意味は見られませんが」
「実際にないよ」
その通りだとだ、中田も答える。
「ただ闘いたいだけだよ」
「戦いを好まれない貴方がどうして」
「確かに好きじゃないさ」
戦いはというのだ、このことは確かに言う中田だった。
だがそれでもだった、強い声で聡美にこうも言うのだった。
「それでもな」
「水の剣士とはですか」
「剣道をやっている者同士ってことでな」
「闘われるのですね」
「勝っても負けても降りるさ」
剣士の戦いからはというのだ、そのことは約束するのだった。
「絶対にな」
「そうなのですか」
「ああ、このことは約束するからな」
「それはいいのですが」
「まあな、馬鹿な奴の最後の最後の我儘だよ」
またこう言う中田だった、それも笑顔で。
「そういうことでな」
「ではこのことを」
「上城君には俺が直接言おうか」
「いえ、私が伝えます」
そうするとだ、聡美は中田に曇りながらも確かになっている顔で答えた。
「そうしますので」
「そうか、そうするんだな」
「はい」
こう答えるのだった。
「ですから中田さんからお話せずとも」
「わかったよ、それじゃあな」
「そちらはお任せ下さい」
「時間は何時でもいいけれどな」
中田はそれはいいとした。
「彼の都合に合わせるさ」
「それはですか」
「ああ、そういうことでな」
「では今から」
上城、その彼のところに行くとだ。聡美は中田に答えた。
「そうさせてもらいます」
「それじゃあな」
「はい、では」
中田は笑顔で病院を後にした。しかしその彼を見送ってだった。
聡美は暗い顔にならざるを得なかった、そしてだった。
姉妹達に連絡をする、するとだった。
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