知る者は少なく
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ように泣きじゃくれたなら、どれほどいいだろうか。
しかし彼は自分に対する決意を込めて、そして自分が壊れない為にも、その少女に話す事にした。
「袁術軍との戦が終わってから、桃香や白蓮が天下統一を拒絶した場合の事だ。俺は桃香と共に牡丹が命を賭けて助けた白蓮を見捨てるか、あいつらと戦って、最悪の場合殺さないとダメかもな」
彼の冷たい、自分に言い聞かせるような声を聞いて月は目を伏せた。
――この人は友達が助かった事を喜ぶ暇も無いのか。それに友達が命を賭けて救った人に自分で手を掛ける覚悟を持とうなんて……どれだけこの人は歪んでしまっているのか。
抜け殻のように月下を歩いていた理由を知り、月の心に心配が沸き立つ。
恐怖は湧かなかった。彼がどのような人物で、どれほどこの世界を救いたいか知っているから。
横目で月を見た秋斗は少しだけ微笑んだ。
「ありがとな、俺は大丈夫だよ。……誰にも先なんざ完璧に読む事は出来ないしちょっとした事で変わるもんだ。それに現実を知ればあいつらは必ず分かってくれる。今までもそうだったんだから。でも……白蓮自身が嫌ったモノになる事を決めるには時間がいるんだ。あいつの心が癒えるには後少しは平穏が必要だ。戦の最中に現実の袋小路なんてまだ話さないでいい」
彼が優しく話そうとも、月は尚も心配の瞳を向け続けた。
その可能性に縋っている事が分かって。それだけが彼の最後の心の支えなのだと理解して。
月は桃香が侵略の選択をする事をあまり信じていない。精々が四分六分と言った所。雛里と詠の二人とは、秋斗に内密でその事を話し合っている。
ゆっくりと、月は秋斗の手を取り両手で包み、優しくさすった。
せめて少しでも心を暖められるようにと。
「クク、お前さんは本当に優しい。あとな、話した事は月の胸にだけ仕舞っててくれ。たまには俺のわがままも聞いて貰わないとな」
楽しそうに言葉を紡いでいても、月は彼の本心を悟っている。
雛里に心配を掛けたくないのだと。弱っている時に心の内側を零す事がある為に、偶然ここに来た自分が問うてしまったから話してくれただけなのだと。
雛里くらいには話せばいいのに、と思いながらも……彼女は少しだけ嬉しさを覚えていた。
それがどうしてなのか分からず首をほんの少しだけ捻るも、彼女は秋斗に答えを返した。
「分かりました。今日の事は胸の内に。ただ……本当に耐えられない時は雛里ちゃんか詠ちゃん、私でもいいので頼ってくださいね」
噛みしめるように目を瞑り、秋斗は表情を綻ばせて目線を上げた。半分の月はにこやかに彼を見下ろしている。
夜空に輝く月と同じ真名を持つ少女の優しい光を向けられて、彼の暗い心は少しだけ落ち着いていった。
二人はしばらく無言のままで、星
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