知る者は少なく
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だがそれでも、同盟の方が危うい。
彼はこの大陸の歴史を二千年先まで知っている。中華という大陸も、中華以外の他の国々も、どのように移り変わって来たかをある程度知っている為に、同盟を是と考える事だけは出来ない。
望むのはより長い強固な平穏。国の分裂はそれに対して確定的な歪みを生み出す事になる。
同盟での乱世の終結とは、簡単に言えば本当の意味で『乱世が終わる』事は無いのだ。全ての王が桃香のようにはなれない為に、幾多の牽制と数多の駆け引きを繰り返して継続される平和となる……それが本当の平和であるのか。
『そんな下らない事に頭を使うくらいなら一つの大きな国を良くする為に頭を使えばいい』
というのが彼の思考の根幹にあるモノであった。
桃香が一人の王として立ってしまっている現状、最大の矛盾点はそこにある。先の世界の礎となる、平穏な世界の土台を造る、それは争いの火種を少しでも減らしていく事が大前提。憎しみを受け、誰かの仇として刃を向けられる事を覚悟の上で統一して従える事が出来ないのならば、生きている人だけを信じて妥協してしまうのならば……久遠の理想を説いてはならない。人が人である故に。
「時間は想いを風化させますし、人の心は善も悪も持っています。私達が居なくなった世界で、誰かしら統一思考を持った人が出れば直ぐにまた乱世が来てしまうでしょう。大陸がここまで乱れてしまっては……天下統一で絶対的な王の存在を大陸に知らしめ、誰も抗えないように従えないと意味がありません」
月と詠には洛陽で人の暗い部分を見てきた経験という大きな力があった。帝を救うために尽力して負けたが故に、大陸の現実を誰よりも知っている。
だから彼女や詠は話されずとも秋斗の狙いが分かる。何をしようとしているかも、何を目指しているのかも。天下三分では本当の平穏が手に入らない事も含めて半分くらいは理解していると言えた。
乱世に於いて磨き抜かれた才を持つ英雄達、その煌く数多の才を一つの国に集約出来るのならば……どれほど強固な国を造る事が出来るのか。そこまでが月が理解している事。
ただ、秋斗の考えている事には、自分の持つ未来知識を投げ入れる事によってどれほど大きな平穏を作り出す事が出来るのかというのも追加される。未来の知識は劇薬であり霊薬。平穏になった世界でこそ一番に生かす事が出来る。
「……それが聞けただけで十分だ」
一言。虚空に溶かすように呟いた彼の瞳は冷たく、昏い。
月はその声と、横顔からでも分かるその色を見て一つの予測が立ち、彼が膝に置いている手に自分の手を重ねた。
「何を……切り捨てようとしてますか?」
ピクリと重ねた手が動いて、月はその大きな手を優しく握る。
温もりが彼に伝わり、少しだけ眉を寄せた彼の心は揺れ動く。子供の
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