暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
知る者は少なく
[6/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
見る内に胸が締め付けられた。
 そして東屋の陰に消えた彼を心配して、彼女は部屋を出た。せめて話を聞くくらいなら問題ないだろうと考えて。
 中庭に出ると、遠目に見える彼は空を見上げていた。
 月は静かに近づこうとしたが、感覚の鋭い彼は直ぐに彼女の気配に気づき目を向ける。
 近付いてくる人が雛里では無かった為、ほっと息を付いた彼は力無く笑って再度空を見上げ始めた。今の心理状態では……雛里に会ってしまうと持たないと彼は感じていた。
 彼の横に腰を下ろした月は無言で、同じように空を見上げる。
 浮かぶ半月は緩やかな光を放ち、煌く星々は黒い夜天を彩っている。
 彼が想いを馳せるのは過去の事。三人で祈った願いの事。あの日と同じ空は彼の心の内を映し出している。彼ら三人の願いを、たった一人で叶えよというように。

「……話せませんか?」

 穏やかな、それでいて芯の通っている声が耳に響き、秋斗の視線は少しぶれる。
 誰かに頼りたい、心の弱さを吐き出してしまいたい。だが……彼はそれをしない。
 ただ、自分が行っている事への肯定を求めて、彼女に一つ問いかけた。

「月……このまま、俺達の予測の通り順調に事が進み、益州を手に入れられたのなら天下三分に出来るよう行動することは既に話したよな。俺はそこで終わらせるつもりは無いのも知ってるだろう……どうしてか分かるか?」

 少し表情を曇らせた月は思考に潜る。同じように思考を回す彼は、内側で答えを確認し始める。
 天下三分、後の大陸統一を目指す事には理由があった。
 同じ国力を持ったモノが協力しあって平和を継続させる……そんなモノは夢物語の妥協した現状維持だと知っている為に。同じ文化を持った国は一つに纏めてこそ先の世の争いが減っていく。二千年後の世界でもそうであった為に。
 同盟というモノは直ぐに崩れ去る危険性が高いのだ。乱世を治めた者が生きている間はいいが、自分達の世代が死んだらどうなるのか。曹操のように野心の高いモノが出てきたらどうなるのか。また統一しようという輩が出てきたらどうなるのか。
 人の欲は深く、縛りきる事は容易では無い。国力が増強されれば必ず引っくり返そうとする者が現れる事は確実。
 例えば、三つに分けても二つの国が手を組んだら直ぐに崩れる。不滅の均衡など不可能。
 確かに、統一しても引っくり返される可能性は多々ある。今までの王朝にしてもいわゆる独裁に過ぎないのだから。
 独裁と言えば聞こえは悪く思われがちだが、賢帝や徳高き帝が治めるならば非常に効率のいい、または人々にとって優良な政治ではなかろうか。しかし、そのようなモノ達は極めて稀にしか出現する事は無く、それこそがこの大陸を幾度となく腐敗させてきた要因。統一してから変えられなければ、今までの世界の継続に成りかねない。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ