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乱世の確率事象改変
知る者は少なく
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化し、曖昧、ぼかし……自分の目的を語る事を先に追い遣った。最低限の譲歩をして、ギリギリのラインで後々どうとでも出来る卑怯な言い回しをした。出来る限り普段通りの声音を繕って。
 せめて今の戦を終えてから。桃香と一緒にどうにかしよう、と。
 最悪の場合どうするしかないかも思い浮かんで心を砕く。
 白蓮は現実を知っている、だから大丈夫と……何度も何度も自分に言い聞かせながら。
 くしゃくしゃと白蓮の柔らかな髪を撫でて、耳元で甘い声音を作って囁く。 

「そろそろ夜も遅い。今は身体と心を休めた方がいい」
「……もうちょっとこうしてちゃダメか?」

 心に出来た穴を埋めるにはまだ足りない。寂しくて、切なくて、辛くて、白蓮は子供のように人の温もりを求めた。甘えた声を出されて秋斗は理解する。やはり、まだ白蓮に現実を突きつけるのは早すぎるのだと。
 秋斗はどうにか自分の心を悟られないように意識を尖らせて、身体を少し離して白蓮に瞳を合わせて微笑んだ。

「いつまでもずるずる引き摺っちまうからダメだ。代わりに寝付くまで手を握っててやるから……」

 一つ二つと嘘を重ねて行く。自分にも、友達にも。

「……分かった」

 弱っている白蓮は彼の心の内側に気付くことが出来なかった。
 彼女はゆっくりと身を離して、寝台に潜り込む。掛け布の隙間から手を差し出し、灯りを吹き消した秋斗の大きな手にきゅっと優しく握られて静かに目を閉じた。

「おやすみ、白蓮」
「おやすみ、秋斗」

 誰かが側にいる安堵から、泣き疲れて弱った心から、彼女はすぐに眠りに落ちた。
 落ち着いた寝息を聞きながら、秋斗は自問自答の思考に没頭していく。
 一刻、二刻と時間が経って漸く、彼は手を離して彼女の部屋を後にする。
 廊下を進む彼は月が大きく傾いた夜天に想いを馳せる為に外へと向かって行った。






 慟哭の叫びは三人の少女の心を穿っていた。
 しかし……今は自分達ではどうする事も出来ないのだと、二人の時間を邪魔してはいけないのだと理解し、各々の部屋に戻って耐えていた。
 長い時間の後、二人の少女は眠りについていた。明日にでも彼の状態を確認しようと判断して。
 ただ一人、白銀の髪の少女は寝付けなかった。それは自身が経験した事のある痛みであったから。王として、臣下を失った事のある月だけは、自身と白蓮を重ねてしまった為に痛みが甦ってしまっていた。
 ふいに彼女は少し外の空気でも吸おうと思って窓を開け放つ。
 涼やかな風が頬に当たる中、自身の真名と同じである月の輝きを見て過去を振り返ること幾刻、彼女の目に一つの黒い影が映る。
 普段とは違い、力無く歩く彼の足取りに違和感を覚えた月はじっとその背を見据えた。まるで何かの抜け殻のようなその背を
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