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銀河英雄伝説〜生まれ変わりのアレス〜
決戦6
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援軍を待っている。
 時間を稼げば味方だけでなく、敵の増援も来る事を理解している。
 それを天秤にかけた結果、時間を稼ぐ事を選択した。

 そこには戦功も、あるいは保身もない。
 ただ出来る限りの事をする。
 当たり前のことであるが、それをされる今は笑えることでもない。
 あるいは。

 苦く表情を作った姿に、ヘルダーがブラスターを撃ちながら、怪訝に眉をしかめた。
 敵の攻勢の前には何ら意味を成さないことだが。
「敵はこちらの増援を待っているのかもしれない」
「……それは相手に不利に。いや、なるほど。狙撃兵の理論だな」
 ラインハルトは黙って頷いた。

 敵の侵攻を止める際に、狙撃兵は頭を撃ち抜くことはない。
 撃つのは足や肩など、戦力を削ぎ、なおかつ死なない場所だ。
 そうしておいて、助けに来た味方を撃つ。
 もし助けに来なければ、怪我をした味方を撃って、悲鳴を上げさせる。
 その悲鳴を上げさせる立場は。

「帝国にとってはどうでもいいが、私は利用価値はありそうだ」
「そう思うのならば、ブラスターを撃たずに身体を外に出さないことだ」
 再びブラスターを撃ちかけて、ヘルダーは苦笑した。
 小さく息を吐いて、ブラスターを手に岩に身体を預ける。
「ミューゼル少尉が私の身体を心配するとはな」

「私はまだ死ぬわけにはいかない」
 強い言葉に、ヘルダーは小さく笑う。
 身体を乗り出さずに、顔を出した。
 敵はラインハルトの考え通り、こちらに対して突撃をせずに待っている。

 おそらくは味方を。
 損害を出さずに敵を撃ちとれる人員を集められれば、突撃にするのだろう。
 あるいはこちらが先に人員を集められれば。
 ……チェックメイトだな。
 もし敵よりも先に味方が現れれば、敵は撤退するだろう。

 そうして来るのは敵の爆撃機によるナパームの炎。
 むしろ、敵はそれを望んでいるのかもしれない。
 八方ふさがりの現状に、ラインハルトは隣で親指を食んだ。
 まだ幼年学校を卒業したばかりの若造。

 命をビットした戦場など、経験したこともない。
 だからこそ、幾ら天才といえどもヘルダーは負けないと思っていた。
 知識ばかりの天才など、軍にとっては無用の長物でしかない。
 貴族にとっては、好きにできる獲物に他ならない。

 だが、奴が経験を手にすれば。
 彫像のような金髪の若者が、逃げだす策を考えている。
 まったく――。

 + + +

「ミューゼル少尉」
 隣から聞こえた言葉に、ラインハルトはヘルダーを見る。
 そこには唇をあげて、苦い表情を浮かべる姿があった。
 何も思いつかないのならば、思考の邪魔だ。
 そう呟きかけた声を押さえるのは、ヘルダーの瞳だ。

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