第3章 聖剣の影で蠢くもの
第26話 誇り高き狼
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通の犬なら嫌がるところだろうが、普通の犬ではない私は、無言でされるままにする。
その姿に笑顔を浮かべながらみやる少女の母親とシグナムが世間話をしている。
昔の私たちでは考えられなかった、穏やかな光景である。
気性の大人しい――理性をもっているのだから当然だが――私は、ご近所の評判がいい。
こうして散歩しているといろいろな人に絡まれるのが常だった。
「ザフィーラちゃんごめんね。うちの子はザフィーラちゃんのこと大好きみたいで」
少女の母親がすまなそうに言ってくる。
気にすることはない、としっぽを振って返事をする。
シグナムも、ザフィーラは嫌がっていませんよ、と口に出して言う。
「本当にザフィーラちゃんは大人しいわね。うちはマンションでペット禁止だから、羨ましいわ」
このように褒められることも多い。
ただの犬ではなく守護獣なのだから、当然の評価とはいえ、褒められて悪い気はしなかった。
私はこの穏やかな日常が好きだった。
散歩をして近所の人々と触れ合い、家に帰れば主が料理を準備して待っている。
戦ってばかりの血なまぐさい日々を思い出す。
主のために戦うことを使命とする守護騎士として、戦いが嫌いなわけではない。
だだ、温かいわが家が、これほどまでに素晴らしいとは知らなかった。
この素晴らしい生活を与えてくれた心優しい主を思い出す。
親を殺され涙していた姿。
私たちの出現に戸惑いつつも、毅然とした態度で魔王に立ち向かう姿。
何よりも「家族」を大事にし、小さなことでも一喜一憂する姿。
私の――私たちの思い出にはいつも主はやての姿があった。
気高く誰よりも強い光を放つ少女、八神はやて。
彼女を守ることこそが、私の使命だと疑いなく思っていた。
ただ、さきほどから妙に胸騒ぎがしていた。
野生のカンとでもいうのだろうか。
(シグナム、今日はもう帰るぞ)
(ザフィーラ?いつもよりも大分早いがいいのか?)
(嫌な予感がする、いまは主の側にいたい)
主のことを口に出すと真剣な表情でシグナムがわかった、とうなずく。
「ザッフィーばいばーい!」
手を振る女の子にしっぽを揺らして返事をしながら、家路をいそぐのだった。
――主はやては必ず守ってみせる。盾の守護獣……いや、八神家の自宅警備員の名に懸けて
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