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少年と女神の物語
第五十三話
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 ここまで話すと、さすがの護堂でもなんでそんな恐怖症があるのかが気になるらしい。
 表情で分かりやすく、そう言っている。

「・・・話、聞くか?俺としてはトラウマは残ってるけどある程度吹っ切れたことだし、話しても問題ないが」
「そうだな・・・じゃあ、聞かせてくれ」
「って、聞くのかよ」

 こいつの中での他人との線引きが、よく分からない。
 踏み込むときはどこまでも踏み込んでくる。

「じゃあ、話すぞ。俺がまだ、神代武双じゃなく、名前すらなかったころの話だ」



◇◆◇◆◇



 名前すらなかったといっても、実際にはあったんだと思う。
 一度も名前で呼ばれたことがなかったし、親も教えてはくれなかった。
 学校にでも行ってたら違ったのかもしれないけど、そのころはまだ幼稚園だの保育園だののころがほとんどだった。
 通っていなくても、そこまで大きな問題にはならなかったのかもしれない。
 さすがに小学校に入ってからは多少問題になってたのかもしれないけど、それでも通うことはなかった。

 俺にはそのころ、父親に当たる人と母親に当たる人、それに姉にあたる人がいた。
 その人たちの名前も、俺は知らない。
 その名前もまた、教えてもらってはいない。
 聞いたことすらない。

 おかしいと思うか?それでも、それが事実なんだ。
 同じ空間で暮らしていれば名前で呼んでいたのを聞いたりもするんだろう。
 子供が親の名前を覚えるのなんて、そんなときだろうし。
 でも、俺は聞いたことがなかった。
 なんでって?そんなの簡単だ。


 俺は、一人だけ別の空間にいた。


 記憶にないような昔は同じ空間にいたのかもしれない。
 じゃなけりゃ、俺死んでるはずだし。
 でも、記憶にある限りでは同じ部屋に四人揃ったことはなかった。
 俺はずっと、倉庫の中に監禁されていた。

 最初のころは、泣いて泣いて、お父さんお母さんって呼んでたよ。
 それで来てくれると、すっごく安心して・・・その次の瞬間に、殴られるか蹴られるかした。
 そんななれなれしく呼ぶな。
 お父様と呼べ。
 お母様と呼べ。
 次からは学習してそう呼んでも、うるさい。呼ぶな。そう言って、また暴力を振るわれた。

 だから、次は姉を呼んだ。お姉ちゃん、お姉ちゃん、って。
 そしたら、また母が来て、思いっきり蹴られた。
 そんな馴れ馴れしく呼ぶな。
 お姉様、だろ。

 そして、その場で姉にも教え込んでいた。
 この子は、あなたの弟。
 でも、そんなことは気にしなくていい。
 道具以下。
 うるさかったら暴力を振るえばいい。
 むかついたら暴力を振るえばいい。
 何かいやなことがあったら、この子に当たればいい。
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