MR編
百三十四話 神速の剣戟
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翌日、約束の通り二時半に集合したアスナ中心のデュエル見学軍団は、鋼鉄の城の脇をのんびりと飛び上がって、第二十四層主街区《パナレーゼ》に来ていた。パナレーゼは……と言うか第二十四層は、全体的にフィールドの大部分を水面が覆う湖沼フロアで、最上層が近いせいもあってお祭り気味に賑わう街の様子によってか、水面はユラユラと揺れていた。
そんな本島から繋がった幾つもの細い浮き橋の一つの先に有る、、小さな島の水辺。それこそ、寄せる波が足元を洗おうとするほどに近くのベンチに、一組の男女が腰掛けている。
今日も今日とて鴛鴦夫婦な、キリトとアスナである。
肩にアスナの頭の重さが、微かな温かさと共に掛かるのを感じつつ、ゆったりとした気分で湖面を眺めていたキリトに、不意にアスナが言った。
「ね、キリト君……初めてセムルブルグの私の部屋に来た時の事覚えてる?」
「ん?」
聞かれて、キリトは彼女の言う時の事を思い出してみる。頭の中の記憶が鮮明になってきた所で、キリトの口角が無意識に緩んだ。
「自慢じゃないが、記憶力の弱さには自信がある」
「えー」
これは半分本当、半分嘘だ。ゲームの事や好きな事に関してはまぁ沢山覚えられる。が、せめて其れが嫌いな事にももう少し応用できれば、英単語ももう少し頭に詰め込めるだろうに……
「……でも、あの時の事は、ホントによく覚えてるよ」
「ほんとー?」
からかうような、試すような様子でアスナが聞いた。む、其処で疑われるのは心外だ。“好きな事”なのだから忘れようがない。
「勿論、あんときはほら、俺がラグー・ラビットの肉手に入れてさ、アスナが其れ使ってシチュー作ってくれたんだよな。あれは美味かったぁ……今も時々夢に見るし……」
「もう!それご飯の事しか覚えてないんでしょ!」
「あははは……」
口を尖らせ、けれど笑い交じりに朗らかに言う。ばれたか、とばかりにキリトは苦笑した。しかし実を言うと、それ以外にももっとはっきりと覚えている事はある。寧ろこれが一番記憶に残っているのだが……
「いやいや、それ以外にも覚えてるぞ?その作ってくれた人が食事の後俺にナイフをリニアーで……」
「わぁ!ダメダメダメ!それ以上言わないでー!」
しかしその内容を言おうとすると必ずこうなるのだ。顔を真っ赤にしながらブンブンと手を振って来るアスナに、キリトは先程よりも声を大にして笑った。その横顔を、赤い顔のままアスナが口を尖らせて眺める。そんな情景がしばらく続くと、だんだんとこの島に寄って来る妖精達が増えているのが見えた。
その光景を見て気が付いたように、アスナが言う。
「あ、そろそろ時間かな?行かなくちゃね」
そう言いながらも、彼女は惜しむように少しの間キリトの肩に身体を寄せていた。と、少しだけ真剣な表情になって、キリトは言う
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