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戦国異伝
第百五十六話 加賀平定その九

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「それもあるしのう」
「ではお言葉に甘えまして」
「上様と共に」
「他の者は呼ばぬ」
 他の幕臣達はというのだ。
「誰もな」
「我等だけですか」
「お供させて頂くのですか」
「どの者も今や織田家に染まっておるわ」
 それは服にもうはっきりと出ていた、幕臣達もほぼ全て織田家の青い服を着ているのが今の幕府である。
 しかしだ、二人はというと。
「御主達の衣は青ではないからのう」
「我等は幕臣です」
「上様の臣です」
 これが二人の返事である。
「青は織田家の色ですから」
「それを着ることはありませぬ」
「だからじゃ」
 その異様なまでに黒い僧衣に袈裟を見つつだ、義昭は言うのだ。
「御主達だけをじゃ」
「相伴に預からせて頂く」
「左様ですか」
「銭もある」
 その銭が全て織田家から出ていることを義昭は何とも思っていない、幕府そして将軍ならばそれは当然のことだと思っているからだ。
「よい般若湯も好きなだけ飲めるわ」
「では般若湯もですか」
「共に」
「うむ、飲もうぞ」
 是非そうしようとだ、義昭は上機嫌で言った。
 そのうえでだ、義昭は二人を早速能の舞台に連れて行った。そのうえで般若湯、彼自身は酒を飲みつつ能を眺め上機嫌で言うのだった。
 その酒と能を楽しむ中でだ、義昭は酒を飲みつつこう漏らした。
「そもそも右大臣は能は観るがな」
「そちらは、ですな」
「あの御仁は」
「うむ、飲まぬ」
 酒、それをだというのだ。
「全くな」
「とかくそちらは口にされませぬな」
「飲まれたところを見たことがありませぬ」
「あの方は般若湯の類につきましては」
「どうにもですな」
「つまらぬわ、そこも」
 信長が酒に付き合わないことにもだ、義昭は不満を見せて言うのだ。
「酒は飲めぬというがな」
「折角の上様のお勧めですし」
「ですから」
「何故飲まぬのじゃ」
 そのことにもだ、義昭は不機嫌を露わにさせて言っていく。
「余の酒を」
「全く以て失礼ですな」
「上様のお勧めを断るとは」
「我等にとっては考えられませぬ」
「不敬です」
「朝廷、帝を大事にするが」
 そのことは義昭も文句は言えない、しかしなのだ。
「じゃが武門としてじゃ」
「はい、上様は棟梁です」
「棟梁をないがしろにしてはなりませぬ」
「右大臣殿はそれがわかっておられぬ様で」
「困ったことであります」
「思い知らせてくれるわ」
 義昭は飲みつつ言っていく。
「余の力をな」
「幕府のですか」
「そのお力を」
「そうしてやるわ」
 必ず、というのだ。
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