自称王と他称王
四話
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味だったアレクは態勢を立て直しながら思う。
(この子、Mだ!)
――的外れな事を。周りの目が穏やかに成ったので、そう受け取った。
次いで、Mならばもっと厳しい方が喜ぶ筈、とアレクは手数を増やし、ギアを上げる。的外れな勘違いであるが、行動自体はヴィヴィオの好みに合っていた。
次第にヴィヴィオの拳が逸れ始め、時には打つ事すらも出来なくなる。
(凄い……凄いっ!!)
腕が伸びきる迄にアレクの掌が入り、拳は外に逸れていく。手数を増やしてみれば、自分以上の手数で押さえられる。蹴りを放てば、無数の掌で体勢を崩され、押し流される
攻める側に居るのに、一向に防御を崩せない。繰り出す攻撃が通らない。その事実がヴィヴィオをより熱くする。
調子を取り戻し、上機嫌になっていくヴィヴィオの様子は見ている面々にもよく分かる。経過を心配していた者も、強張り気味だった肩を落とす。
だが一人だけ、より鋭い視線で見る者が居た。
(……じゃれている)
真っ直ぐな技と心で向かうヴィヴィオはまだ良い。その純粋さは幼い頃のオリヴィエを思わせたくらいだ。
ただ、武才は彼女に遠く及ばないが為に、自身が戦うべき王では無いと切って捨てた。
因ってアインハルトが射抜くのはアレクの方。
圧倒的な手数は、覇気を込めれば怒涛の猛撃に変わるだろう。
力の抜けた掌は、覇気を込め拳に変えれば忽ち必殺へ変わるだろう。
腑抜けた顔付は、覇気を纏い殺意を持てば、其れこそ自身の望みに変貌するだろう。
だが、アレクは覇気を燈さない。まるで爪と牙を隠して戯れる獣のよう。
オリヴィエを失い、全てをなげうって力を望む最中、圧倒的な暴力でクラウスを地に伏せた彼の姿は何処に。彼の武具を持つというのに、悲願を向けるに相応しい姿は見せない積もりだろうか。
ならば、とアインハルトの目が冷たく細まる。
「そこまで!」
制限時間の四分が終わり、スパーリングを止めるノーヴェの声が響く。
うにゃ〜、とヴィヴィオは奇妙な吐息をし、満足げに二三言アレクと交わした後、ノーヴェと共に呼ばれる方へ歩いて行く。
好機は……今!
「アインハルト!?」
驚き叫ぶ声は既に背に、アインハルトの拳はアレクの眼前に迫る。
「うおっ!?」
アレクは寸の所で躱し、後方へ飛び退こうとするが、その足をバインドで縛る。
アインハルトは倒れ行くアレクにもう一撃、覆い被さるような体勢で拳を殺意に塗れた繰り出す。
これでどうなるか。戦闘経験を有しているならば、きっとその中に彼は居る。
だが、これでも顔を出さなければ、もういい。アレクの事も諦めて、他の相手を探そう。探して戦って、朽ち果てるまで、そうやって生きよう。
そう思い腕を伸ば
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