第九十五話 中田の決断その三
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「明日の朝にはね」
「明日の朝ですか」
「その時にですか」
「うん、患者さん達は目を覚ますから」
こう言うのだった、至って涼しい顔で。
「ご家族を呼んでね」
「手術が成功しただけじゃなくて」
「目を覚ますんですか」
「奇跡ですよ、それって」
「三人共って」
「そうだよ、だからね」
三人共だというのだ、それでだ。
三人の家族即ち中田を呼んでくれというのだ。アポロンは自分の手術を手伝ってくれた医師達に言うのである。
「ここはね」
「ここはですか」
「今は」
「明日の朝までは休憩だよ」
そうしていいというのだ、彼等も。
「お疲れ様」
「いや、私達は何もしていませんから」
「本当に何も」
「見ていただけですから」
「このことは」
「いやいや、僕一人ではね」
どうだったかとだ、穏やかに言うアポロンだった。
「こんなことは出来ないよ」
「左様ですか」
「そう言ってくれますか」
「事実だよ。僕一人ではね」
手術は出来ないというのだ。
「一人の力は限られているよ」
「そうなのですか」
「先生でも」
「神様とさえ言われていても」
「ははは、神様だね」
無論自分が神あることを隠してだ、アポロンは彼等の中の一人が神という存在に言及したのを受けてこう言ったのだった。
「神も万能ではないよ」
「神様もですか」
「そうだよ、神とは何か」
それはというと。
「他の人が知らないことを知っているだけだよ」
「そうなのですか」
「そう、そして長生き出来るだけだよ」
それだけだというのだ。
「神はそれだけの存在だよ」
「偉くはないのですか」
「知らないことを知っていることを偉いというのなら偉いかもね」
そう考えられるかも知れないというのだ。
「そうかもね、けれどね」
「神様でもですか」
「うん、出来ないことはあってね」
「一人ではですか」
「出来ることは限られているよ」
そうだというのだ。
「万能ではないし何もかも一人でもやり遂げることもね」
「出来ませんか」
「だからギリシアは北欧では多くの神様がいて」
そのうえでだとだ、アポロンは続ける。
「それぞれの神様に従者がいるんだ」
「助けが必要だからですね」
「キリスト教の神様でもそうだね」
「天使ですね」
「そう、あの天使達を神とみなしてもいいよ」
キリスト教は一神教なのでこの見方はキリスト教のものでjはない、しかしギリシアの神の一柱であるアポロンはこうも考えるのだ。
「だからね」
「神といえどですか」
「この手術だってね」
やはり自分が人間として話すのだった。
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