第二章
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しんでいた。遊郭と一口に言っても様々な遊び方がある。彼は所謂お大尽遊びをする立場なのでとびきり上等の花魁を選ぼうとしていたのである。
「さてと」
煙管を手に粋な着流しの格好で遊郭の中を歩き回りながら店から店に歩いていって物色している。そうしたことも楽しんでいるのである。
「今日はどんなおなごを選ぼうかな」
「おや、これは前田の旦那」
馴染みの店の一つの前で客引きに声をかけられた。
「今日はこちらのお店でどうでっか?」
「おや、誘いでっか?」
この客引きも知っている顔である。菊五郎は彼に顔を向けて上機嫌で問うのであった。
「そうですわ。どうでっか?」
「けれどおたくには前は入りましたやん」
楽しげに笑って述べる。
「ええおなごがおったらええですけれど」
「おりまっせ」
客引きは上機嫌で言ってきた。
「新しく入ったのね」
「新しく」
菊五郎はその言葉にふと目を止めてきた。
「どんな娘でっか?」
「岩手から来ましてん」
東北である。戦前までは東北はとかく貧しくて娘を売りに出す家も多かったのだ。従って遊郭もまた東北の娘が多かったのだ。これがなくなるのは戦後からであるから思えばついこの前までこうしたことがあったということである。実はこの時代はそれも問題になっていた。陸軍の青年将校達が東北出身の兵士達からそうしたことを聞いて国のことを憂いていたのだ。それがあの二・二六事件につながっていくのである。
「岩手からでっか」
「肌が白うおましてな」
客引きは笑って言う。女が奇麗とされる条件のうちの一つだ。
「それで細こうて」
「白粉塗ってるから白いのは当たり前でんな」
菊五郎は意地悪い顔を作って述べてきた。遊び慣れた彼にとってはそうしたことは当たり前のことであり取り立てて気を引くものではなかったのである。
「それではこれといって」
「おやおや、それだけでは駄目でっか?」
「足りまへんわ」
彼は笑って返した。
「生憎なことですけど」
「そうでっか。けれどそれだけではおまへんで」
ところが客引きは笑ってこう言ってきた。どうやらそれだけではないらしい。こうしたことで宣伝を小出しにするのは遊郭ではよくあることである。
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