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乱世の確率事象改変
少女の慟哭
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 愛紗とて、人によっては無粋と取られるような事はせず、普段であれば何も言わずに支えようとするだろう。しかし今回ばかりは問題が広く、大きすぎた。
 秋斗の事も考えると、どうしても星に残って欲しかったのだ。きっと彼の事だから、また溜め込んでしまう、抱え込んでしまうと。生真面目に過ぎ、不器用な自分では秋斗も星も支えるには足りないと感じていた為に、せめて心の澱みを聞くくらいなら出来るのだと。
 そんな愛紗の心を汲み取ってか、星は優しげに微笑んだ。

「ふふ、向こうに着いて酒に付き合ってくれるのなら、嬉しくて酔ってしまい独り言を零してしまうやもしれんなぁ」
「……程ほどに、だぞ?」

 相も変わらずな星のやり口に愛紗の頬も少し緩み、二人はそれぞれの想いを抱えながら馬を進めて行った。






 行軍を終えて国境付近の城に到着し、二人は星に宛がわれた部屋の中、酒の立ち並ぶ机の前に座っていた。
 夜半を過ぎた時刻のため人の気配は無く、城の中は静寂が全てを支配していた。杯を打ち合わせて一刻程であるが両者共に無言のまま。たまに聞こえる嚥下の音、星はそれを懐かしみながら酒を進める。

「随分とまあ……強引な、しかし愛紗らしい気遣い感謝する。どうやら嬉しくて酔いが回るのが早いらしい」

 ゆっくりと杯を机に置いて愛紗は目を瞑る。独り言ならばここからは何も見ず、何も言うまい。そんな事を考えて。相も変わらず真面目な事だ、と星は呟いて目線を切り、虚空を見つめて口を開いた。

「私は……早く戦に出て気持ちを誤魔化したかったのが一つ。今もあの戦を思うと心が引き裂かれそうだ。不意打ちで始まり、裏切りで苦しめられ、静観で絶望に落とされ……逃亡で誇りを泥濘の中に沈めた」

 ぐいと酒を煽り、熱い吐息を吐いた星は空になった杯に酒を注いでいく。

「ずっとあの地を守ってきたあの方の誇りを貶めてまで私は、いや、私達はあの方に生きて欲しかった。この戦乱の世、その後に大切な家を取り戻そう、帰ってくれば必ずまた作り出せるからと」

 言葉を一つ区切りまた酒を煽る。悲痛に歪む顔は逃亡中の自身の主を思い出してであった。

「もう一つが今の白蓮殿の姿――涙を零さず、先の目的を考えて動き、残してきた民や臣下、付き従う部隊、死んでいったモノ全ての期待に応えようとする様は……確かに王足るに相応しく、間違いなく理想の主となってくれたと言える。だがな、白蓮殿は……私達の好きな白蓮殿は……もう戻ってこないかも知れないのだよ」

 零された震える声に愛紗の眉がピクリと跳ねる。それでも、ただ疑問と感情を抑えて聞き続けていた。

「決定的だったのは牡丹の死だ。今までも切り捨ててきたモノはあるが……今回ばかりは片腕を自ら切り捨てたのだから仕方のない事だろう。半身
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