第三章
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第三章
「どうやら君はメイクアップアーチストにもなれそうだな」
「それもなりたいと思ったことはあったね」
今度は冗談ではなかった。見れば彼は身なりにはそれなり以上に関心はあるようだった。髪型はアフロにして髭も剃りファッションも派手めだがいいものだ。爪は男だてらに伸ばし様々な色でカラーリングしている。風変わりではあるがそれでも関心があるのはわかる外見である。
「けれど実際には」
「画家になったと」
「天職だよ」
これは自分で言った。
「実際ね。けれどね」
「それにもなりたかったと」
「そういうことさ。けれどメイクアップアーチストじゃ赤は見つからないだろうな」
首を少し捻って述べた言葉だった。
「実際のところね」
「いや、そうともばかり限らないよ」
「そうかな」
「ほら、マニキュアだってそうだし」
コリンが最初に言ったのはそれだった。
「それにアイシャドーにリップだってね」
「ああ、そういえばそうか」
彼に言われて気付くチャーリーだった。そこまで考えが及ばなかったのだ。
「色々あるね、メイクにも」
「そうだよ。赤はよく使われるよ」
「そうだね。言われてみれば」
「そういうのも探してみたら?」
また言うのだった。
「どうかな。それは」
「そうだね。そっちもだね」
言われてまた頷くチャーリーだった。
「じゃあ。そっちもね。調べてみるよ」
「何でも勉強だね」
コリンもまた先程と同じことを述べた。
「本当にね」
「全くだよ。それにしても」
「何だい?」
「赤でも色々あってそこから見出すっていうのも難しいものだよ」
溜息と共に出した言葉であった。
「全くね。赤と一口に言っても」
「共産主義者だったら赤は一つだけれどね」
「馬鹿馬鹿しいよ、あれは」
その赤はこれで切り捨ててしまった。
「労働者の血の色だったね」
「そうだよ」
「大体それ自体が嘘じゃないか」
ソ連という全体主義国家を批判してだけではない。共産主義という全体主義思想そのものを批判している言葉なのである。彼は現代のアメリカ人だがそれでも共産主義が嫌いだったのだ。
「革命と称するクーデターで殺した相手の血だよ」
「それなのかい」
「そしてその後で粛清された人間の血だね」
どちらにしろ労働者の血ではないというのだ。
「もっともその中に罪もない労働者の血もあるんだろうけれどね」
「そういえばもう労働者なんて言わなくなったね」
「時代が変わったからね」
やはり共産主義に対して冷たい。もっとも二十一世紀の時代に十九世紀中頃の思想や経済学がそのまま当てはまると考える方がおかしいのであるが。
「あれは妄想だよ、今となっては」
「けれどその妄想で多くの人が死んだ」
「それこそナンセンスだ」
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