第百五十六話 加賀平定その四
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「許せるのは今だけじゃ」
「次はないと」
「そのこともですな」
「百姓達に教えよ、無論御主達もじゃ」
次はないというのだ。
「わかったな」
「はい、わかりました」
「それでは」
「百姓達に教えます」
「二度目はないと」
「わしも民と戦うなぞ嫌な話じゃ」
信長もまた武士である、武士は武士と戦うものであるという考えなのだ。だからこそ百姓達と戦うことはというのだ。
「民を守るならともかくじゃ」
「ではそのことを守らせます」
「二度と一揆は起こすなと」
「その様に伝えておきます」
「我等も肝に銘じておきます」
「その様に」
「あの闇の服の者達にも伝えよ」
ここで信長は彼等のことも話に出した。
「よいな」
「あの者達ですか」
僧侶の一人がすぐに怪訝な顔で信長に答えた、その答えた言葉とは。
「実は我等も」
「知らぬか」
「何処の村の者か知りませぬ」
こう信長に言うのだった。
「率いる僧侶達も何処の誰か知りませぬ」
「同じ一向宗でもですか」
「そもそも我等の色は灰です」
灰色、その色だというのだ。
「あの様な色ではありませぬ」
「一向宗は灰色じゃな」
「左様です」
このことは絶対だというのだ。
「民百姓は罪を犯してしまいます、悪です」
「悪即ち黒じゃな」
「しかし善になりたい、なるものですから」
「善、即ち白が入るなその黒に」
「だから灰色です」
本願寺の色にはそうした由来があるのだ。言うまでもなく親鸞の悪人正機からくる考えであることは言うまでもない。
「黒ではありませぬ」
「決してじゃな」
「左様です」
「そもそも黒は上杉の色じゃ」
謙信が定めた色である。
「上杉謙信が伊勢や近江に力を及ぼす筈もない」
「しかもあの黒は」
僧の一人がまた言う。
「上杉殿の黒ではないかと」
「闇じゃな」
「黒よりもそれに思えます」
「悪でもないな」
尚上杉家の黒は水、北に由来する。謙信が信仰している毘沙門天は北を守護する四天王であるので五行の北の色である黒なのだ。
「あれでは」
「違うかと」
「そうじゃな、しかしじゃ」
「我等があの者達を知らぬことですか」
「それは理屈が通らぬ」
到底だというのだ。
「何故御主達が知らぬのじゃ」
「それが我等もです」
「不思議でして」
「どの村にもおりませぬ」
「率いる僧達も何処から来ているのか」
「全くわかりませぬ」
「聞いても答えませぬし」
彼等もこう言うのだった。
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